当事者が社会で活躍するための鍵となる「発信できるスキル」

生田目:ジョブコーチのような専門的なサポートも重要ですが、最終的には、本人が自らの力で社会と関わっていくことになります。鳥井さんはこれまで、本当に多くの方の就労を支援されてきたと思います。その豊富な経験のなかで、障がいのある方が職場や社会で活躍していくためには、どうすればよいと考えていますか? もしも、たった一つだけ挙げるとするならば、どのようなスキルが必要になるのでしょうか。これは、多くの保護者の方や企業担当者が最も知りたい点だと思います。

鳥井:そうですね…。スキルはいろいろとありますが、「自身の体調が悪いこと、そして、わからないことを自ら発信できること」。これに尽きると思います!

生田目:発信力、ですね。

鳥井:はい。なぜなら、本人が何も発信しなければ、周囲も、そして私たちのような支援者も、何をどうサポートすべきか全くわからないからです。たとえば、本人が黙って仕事を抱え込んでおり、体調の悪化で初めて周囲が気づくというケースも少なくありません。そうなる前に「今日は体調が優れません」とか「この作業のやり方がわかりません」と、自身のことばでヘルプのサインを出せるかどうか……。

 結果的にそれが本人を守り、働き続けるための生命線になるのです。企業側も、決してサポートを行いたくないわけではなく、その「最初のスイッチ」をどこで押せばいいかわからずに困っています。そのスイッチを押せるのは、他の誰でもない、本人だけなのですから。

生田目:なるほど。本人からの発信があって初めて、周囲のサポートが機能し始めるわけですね。

鳥井:その通りです。私たちは、「職業準備性」ということばを使います。これは、挨拶ができる、時間を守れるといったように、本人側に求められる働くためのスキルのことです。かつては、この職業準備性を高め、本人が職場に適応していくことばかりが重視されてきました。

 しかし、今は時代が変わり、それと同時に「受け入れ準備性」、つまり企業側が多様な人材を受け入れる準備をどれだけできているか、という視点が非常に重要になっています。この「本人側の準備」と「企業側の準備」の両輪がうまく噛み合うことで、初めてよいキャリアが築けるのです。

 その両輪をつなぎ、動かし始めるためのクラッチの役割を果たすのは、やはり本人からの「発信」なのです。これがなければ、どんなに素晴らしい環境が用意されていても、マッチングは始まりません。