お話をうかがったのは、
社会福祉法人東埼玉「中川の郷療育センター」施設長 許斐 博史(このみ ひろし)さん
1975年、鳥取大学医学部卒業後、研修医として同医学部脳神経小児科に入局。自治医科大学小児科、東京医科歯科大学難治疾患研究所を経て、1980年より国立武蔵療養所(現・国立精神・神経医療研究センター)に勤務して子どもの神経難病の研究に従事。アメリカ留学の後に、1991年に東京小児療育病院の医務科長に就任し、重症心身障害児・者の医療・療育に従事。1997年、埼玉県にある医療型障害児入所施設・療養介護施設(重症心身障害児施設)「中川の郷療育センター」診療部長に就任。2000年より現職。

薬によるサポートは子どもの未来をつくるためのものです
Q1 発達特性のある子どもにとって薬はどんな役割があるの?
A1 お子さん自身の「困りごとを減らす」のが薬の役割です
発達特性のある子は、生まれつき脳の細胞や組織に損傷があるため、情報の受信と発信がうまくいかない状態だと考えられます。このため、発達特性のある子は日常でたくさんの困りごとを抱えることになります。その困りごとを少しでも減らすために行うのが薬物療法、つまり薬を用いた子どものサポートです。
親や先生、友人から適切な対応を取ってもらえなかったために、自信をなくしたり、周りの人に怒りを覚えたり、不眠や抑うつ状態になったりする発達特性のある子は少なくありません。それが高じると、不登校や引きこもり、摂食障害、暴力行為などの問題行動につながることもあります。
でも、薬で心身をサポートすることによって、子どもの気持ちが落ち着き、行動が変化すると、「私にもできる!」と自信がついて自分の特性を受け入れ、自己コントロールができるようになっていく子も多いのです。
保護者のみなさんのなかには「薬物療法なんてこわい」と思う方もいらっしゃるかもしれません。でも、きちんと効果が認められた薬を上手に使っていけば、落ち着いて生活や勉強ができる、コミュニケーション能力が向上して集団になじめるようになる、健全な人格の形成ができるようになるなど、プラスの効果がたくさんあります。
繰り返しますが、注意してほしい点は、薬によるサポートはあくまで本人の困りごとを減らすためのものだということです。薬を飲んでも、発達特性のまったくない子どもになるわけではありません。現在、発達特性そのものを治療する薬はないからです。
さらに、発達特性のある子には、薬によるサポートよりも大事なことがあります。それは、子どもが自分の特性をよく理解すること。さらに、家族や周囲の人たちが、その子の特性に合わせて家や学校、職場の環境を適切に整え、サポートすることです。その大前提があってこそ、薬は子どもの自立を支え、未来をつくるものになっていきます。