お話をうかがったのは、
杉並ペディアトリック歯科院長 島津 貴咲(しまづ きさき)さん
歯学博士。日本歯科専門医機構認定 小児歯科専門医、日本障害者歯科学会 認定医、日本歯科大学小児歯科学講座 非常勤講師。2002年、日本歯科大学歯学部を卒業。2007年、日本歯科大学大学院生命歯学研究科臨床系専攻(小児歯科)を修了。2010年、日本歯科大学生命歯学部小児歯科学講座 助教に就任。2013年、同講座講師。2016年から医療法人社団百瀬歯科医院 歯列育成クリニック院長を務め、2022年に杉並ペディアトリック歯科を開業。予防と歯並びに特化した小児専門の歯科クリニックとして、障がいのある子どもの治療も積極的に受け入れている。著書に「どう診る?どう育てる?子どもたちの歯列と口腔機能」(クインテッセンス出版)があり、講演活動も多数。
時間をかけて大丈夫。一歩ずつ、歯医者さんに慣れていきましょう
Q1 発達特性のある子の歯科受診は大変。どのように歯科医院を探せばよいの?
A1 日本障害者歯科学会のウェブサイトから障害者歯科認定医を探しましょう
発達特性のある子にとって、歯科受診はハードルが高いものです。発達特性のある子はそもそも新しい環境が苦手です。なかでも歯科医院は、鋭い機械音やほかの子の大きな泣き声が響く環境ですし、口の中という非常に敏感な部位に触られること自体も大きなストレスになります。さらに、最初の診察で嫌な体験や怖い思いをしてしまえば、「二度と行かない!」と拒絶して、歯科医院に行くことすら困難になることもあります。
ですが、発達特性の有無に関わらず、子どもの歯科受診は、できるだけ“早期”から行うことが肝心です。特に発達特性のあるお子さんはむし歯が痛むようになってからいきなり治療するとなっても実施が難しいことが多いため、乳歯が数本生えてきた頃から、むし歯予防の相談先としてかかりつけ医を見つけておくとよいでしょう。
その際は、公益社団法人日本障害者歯科学会のウェブサイト(https://www.jsdh.jp/general/doctors/)から、発達特性のある子の治療に慣れている「認定医」や「専門医」を探すことをおすすめします。このウェブサイトは、都道府県ごとに認定医や専門医が在籍するクリニックを検索できるため非常に便利です。
もしくは、公益社団法人日本小児歯科学会のウェブサイト(https://www.jspd.or.jp/facility_search/)から、小児歯科の専門医を探すのもよいと思います。
もしも、近くにそうした歯科医院が見つからない場合は、保護者のかかりつけ医に事情を伝えて、発達特性のある子への対応について比較的信頼できる歯科医院を紹介してもらうとよいと思います。
小児歯科の初診は中学生くらいまで、再診でも大学生くらいまでしか診ないところが多いのですが、なかには初診の対象を高校生まで広げたり、大人になってからも治療を続けてくれたりする歯科医院もあります。発達特性のある子は、かかりつけ医の変更を避けたいと思うことが多いため、ぜひ最初に確認・相談してみてください。

Q2 治療をスムーズに進めるために、家庭で事前に準備できることは?
A2 楽しみながらの「歯医者さんごっこ」がおすすめです
歯科医院に通い始める前に、子どもと「歯医者さんごっこ」をしてみましょう。発達特性のある子は、見たことがないものや初めての経験を拒む傾向があるため、その際にはなるべく歯科医院と似た環境や動作をご家庭で再現してみてください。その際のポイントは、子どもの好きな音楽をかけるなど楽しい雰囲気を演出し、決して無理強いはしないことです。
特にご家庭で使ってほしいのが、電動歯ブラシとデンタルミラーです。発達特性のある子どもは機械の振動を嫌がることが多いのですが、電動歯ブラシを口に入れてブルブルさせる練習をしておくと、「家にある歯ブラシと一緒だ」と安心感がわくようです。
実際、電動歯ブラシは自動でヘッドが回り歯をきれいにしてくれるため、口の奥まで歯ブラシを入れることが苦手で奥歯を磨きにくい子どもにはピッタリの機械ですよ。同じように、口の奥まで入れるデンタルミラーに抵抗感をもつ子も多いため、慣れさせておくと治療がスムーズに進みます。デンタルミラーは通販サイトからも購入できます。
また、姿勢の練習も大事です。「歯医者さんごっこ」をする際は、ぜひ、保護者の膝の上で子どもを仰向けに寝かせる練習を実施してください。小さい子どもは、弱い部分であるお腹を見せる「仰向け寝」を怖いと感じるからです。それができれば、仰向けで口を大きく開ける練習、次はデンタルミラーで口の中を見る練習、最終的には仰向けで歯磨きができるところまでもっていけるとよいですね。
ただし、発達特性のある子は先の見通しがつかないことに怖さを感じるため、次に何をするのかわかるように道具を見せて説明したり写真や動画で説明したりしてから行ってください。
歯磨きに苦戦するご家庭も多いようですが、歯磨きを楽しいことと結びつけるとよいですよ。子どもの好きな色やキャラクターの歯ブラシ、好きな味の歯磨きジェルを用意し、先ほども述べたように好きな音楽をかける。そんなちょっとウキウキする「歯磨きタイム」を1日1回の習慣にしましょう。
お子さん自身で磨くのがどうしても難しいときは、スマホで子どもの好きな動画を見せながら保護者が磨くのもアリです。目から入る動画の刺激で口の中への意識が逸れます。このときも「仰向けになってお口を開けたら、電車の動画を見せてあげるよ」と、うまく歯磨きに誘導しましょう。
「カウント法」も効果的です。「今日は10秒お口を磨くよ。1、2、3・・・」と唱えながら磨くと、子どもは数字の方に意識を集中します。「10秒たてば終わる」とあらかじめわかっているため、先が読みやすいというメリットもあります。
最初は1秒でも2秒でもよいので、毎日1回はトライしてみてください。少しずつカウント時間を延ばしていけば、だんだん歯磨きができるようになることが多いでしょう。
どの場合でも、「発達特性のある子の歯磨きは短時間で済ませる」ことが大事です。歯科医院で歯の汚れやすいところや重点的に磨くべきところをアドバイスしてもらい、そこだけ磨けたらOKと割り切ることも必要かもしれません。
いよいよ歯科医院に行くとなったら、「歯医者さんは怖いところじゃないよ。口の中をきれいにして気持ちよくなる場所だよ」と子どもによく説明しておきましょう。子どもによっては、保護者の歯科治療を見せると「ここで何をするのか」がわかって効果的な場合もあります。しかし、音の刺激に敏感だったり、親自身が治療に不安を感じていたりする場合には逆効果になるため、お子さんの特性や性格をよく見極めたうえで同行させてください。












