私は、横浜市立中学校の通級指導教室で発達特性のある生徒およびその保護者の教育的支援を10年以上担当した後、神奈川県川崎市発達相談支援センターに移り、現在は福祉職の立場から学齢期以降の人たちの発達に関するさまざまな相談を受けています。
 今回は、教育と福祉の間(はざま)に身を置く者の肌感覚を中心にお話しします。

「自己選択・自己決定」が欠如している?

 特にデータを採っているわけではありませんが、通級担当時も現在も共通して気になるのは、発達特性のある子どもたちは、日常生活上のあれこれを自分で選び、自分で決める体験を十分に積み重ねてきていない人が意外に多いということです。これは多くの場合、わが子が心配なゆえに保護者が過剰な干渉、いわゆる「転ばぬ先の杖」を乱発してしまうことによって自立が遠のいてしまった結果だと考えます。

 たとえば、「今日のおやつはプリンにする? それともティラミスにする?」といった他愛のないことでさえ、幼少期から自分で選び、自分で決めることがほとんどできていない人もいます。「うちの子どもには、可能な限り失敗をさせたくない」、「うちの子どもにはこちらのほうがふさわしい」などという、保護者がもつ本人ファーストの思いからの関わりであると思います。しかし、視点を変えると、本人が安心して失敗し、やり直すための機会を保護者が無自覚に奪ってしまい、その影響が「進路選択」の時期まで続いているともいえます。

 進学も就労も、本人とその所属する機関とのミスマッチを避ける必要があります。入学・入社の難易度や世間的な評判に関わらず、その人の特性にフィットしたしくみや配慮の提供が期待できない学校や企業では、入学後や入社後の定着は難しいと考えられます。特に前述のような自己選択・自己決定の体験を十分にもたずに、「ママ(パパ)が決めて…」と保護者の希望を自分の希望のように受けとめて過ごしてきた場合、学校や職場の環境にうまくなじめないことがあります。その結果、保護者に依存的な気持ちを強めたり、自分の将来を描きにくくなったりして、不登校や引きこもりにつながってしまうケースもみられます。