お話をうかがったのは、
東京家政大学 健康科学部 講師 東恩納 拓也(ひがしおんな たくや)さん

作業療法士。長崎大学医学部保健学科で作業療法学を専攻し、2014年に卒業後、国立病院機構長崎病院、社会福祉法人聖家族会みさかえの園総合発達医療福祉センターむつみの家で臨床経験を積む。2020年、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科で博士号(医学)を取得。2021年より東京家政大学健康科学部で助教として勤務し、2025年より現職。発達障がい、特に発達性協調運動症(DCD)支援を専門とし、教育と臨床をつなぐ実践的な研究に取りくんでいる。作業療法や特別支援教育について、実用的な知見を保護者や教育者にわかりやすく伝えることに定評がある。

DCDは単に「運動が苦手」なのとは違います。早期から対応を

Q1 発達性協調運動症(DCD)ってそもそもどんなものなの?

A1 生活に支障をきたすほど動きにぎこちなさが見られる特性です


 発達性協調運動症(Developmental Coordination Disorder:DCD)(以下、DCD)は発達特性の一つで、日常生活に支障が出るほど動きにぎこちなさが見られるのが特徴です。

 DCDは社会に広く認知されているとはいえず、その理解や支援はほかの発達特性に比べるとまだまだ足りていないのが現状です。その理由の一つは、少し運動が苦手な子や、不器用な子との見分けがつきにくく、子どもがDCDかどうか、保護者や学校の先生には判別をつけるのが難しいからだと思います。このため、特に幼い子の場合は「ボール遊びは好きじゃないのね」「そのうち上達するよ」ということばで片づけてしまいがちで、なかなか支援に結びつきません。

 運動が苦手な子どもとDCDの子どもの違いは、「動きのぎこちなさによって、何かしらの不便さや問題があり、支援が必要」かどうかです。診断の際は、①運動スキルの獲得とパフォーマンス②日常生活の二つの観点から評価します。

①運動スキルの獲得とパフォーマンス
 DCDの子どもは運動のスキルが身につきにくく、獲得するのに非常に時間がかかります。たくさん練習しても、同学年の子の平均的なレベルに達するのが難しいということがほとんどです。

②日常生活
 私たちが毎日行う動作に苦手さが出ることがあります。たとえば、食事のときに箸やスプーンをうまく持てない。このため、食事に時間がかかり、食べこぼしが多くなります。着替えの際には、ボタンを留めたりファスナーを閉めたりすることがうまくできない、脱ぎ着の際に体のバランスを保てない、といったことが見受けられます。

 ただし、幼児のうちから安易に子どもをDCDであると決めつけるのはよくありません。5歳未満の子どもは発達の個人差が大きいので、DCDの診断は5歳以上から受けるようにするとよいでしょう。

 また、DCDはほかの発達特性と同様、生まれつきのものです。専門家の指導のもとに体の機能向上を図れば、現在よりもよい状態にもっていくことは可能ですが、年齢や生活環境の変化によって新たな困りごとが生じることもあり得ます。


Q2 DCDの子はどのような場面で困ることが多いの?

A2 日常生活はもちろん、学習でも遊びでも困りごとが多発します


 先ほどは食事や着替えといった日常生活の困りごとについて例を挙げましたが、学習や遊びの場面でも多くの困りごとが発生します。

 学習面でのいちばん大きな問題は、文字を書くのが難しいことです。文字を書くことはあらゆる教科の基本です。ですが、DCDの子どもは「文字を上手に書く」というスキルを獲得するまでにとても時間がかかります。

 文字をノートの罫線内に収めるスキル、板書を早く正確に写すスキルなどがなかなか獲得できないため、「文字が汚い」「板書をノートに取らずにサボっている」などと誤解され、責められることがよくあります。しかし、本人は一生懸命書いていますし、必死に努力もしているのです。

 運動スキルを獲得しにくいため、体育の授業は苦手です。指先をうまく動かすことが難しいので、音楽の授業での楽器演奏、包丁を使う家庭科の調理実習、ハサミや絵筆といった道具をたくさん使う図画工作なども不得意です。

 近年の研究では、運動が苦手な子は算数も苦手な傾向があることや、漢字を書くことを苦手だと感じる傾向があることも報告されています。そのため、算数でつまずくことや、漢字がうまく書けないことも多いでしょう。このように、DCDの影響はありとあらゆる教科に及んでしまいます。

 姿勢の崩れやすさもDCDの特徴です。筋肉のつき方は人によって違いますが、DCDの子は筋肉の緊張が弱い場合が多いようです。また、脳の特性によって身体イメージをつかむのが困難なため、自分の姿勢が今どうなっているかをうまく認識することができません。このため、授業中にきちんと座っていることが難しく、机に突っ伏したり、肘をついて体を斜めにしたり、脚を組んだりすることになり、「だらしない」と思われてしまいがちです。

 遊びの場面での影響も大きいものがあります。たとえば、DCDの子どもはボールをうまく投げたり蹴ったりすることが苦手です。このため、友だちと一緒にドッジボールやサッカーをして楽しく遊ぶことが難しくなります。友だちから「うちのチームに入らないで」などと仲間はずれのような言動をされ、本人もそうした遊びに消極的になってしまうこともあります。すると子どもは次第に学校で孤立していき、人間関係や経験の幅が狭くなってしまいがちになります。

 このように、DCDは子どもの学習面や心理面にまで影響を及ぼしかねないため、早期にしっかりと対応することが必要なのです。