発達障がいを含む障がいのある子どもたちとその家族が直面する「親なきあと」問題に、長年取りくんできた実践派の支援者、渡部 伸(わたなべ しん)さん。これまで、成年後見制度の理解促進や障がい者の生活支援を軸に、個別相談、講演や書籍の執筆などの啓発活動を行ってきました。そんな渡部さんをお招きし、「なかなか準備に踏み出せない」という親に寄り添った、子どもの将来(=親なきあと)の支援プランについて、すばるコレクト運営の生田目康道がお聞きしました。(取材:2025年6月10日)
親なきあとの支えとなるのは“地域とのつながり”
生田目康道(以下、生田目):今回は、障がいのある子どもたちとその家族が直面する親なきあと問題に取りくみ、福祉・法律・お金・暮らしの各分野にわたって包括的にサポートしている渡部先生にお越しいただきました。渡部先生、どうぞよろしくお願いいたします。
渡部 伸さん(以下、渡部):こちらこそ、よろしくお願いいたします。
生田目:まずは先生が現在のご活動に至るまでの経緯についてお聞かせいただけますか。
渡部:私は52歳まで出版社に勤務し、執行役員として雑誌の責任者を務めていました。ですが、出版業界はだんだん雑誌の売上げが厳しくなり、会社を辞めることになったんです。その後、資格取得に励み、行政書士の資格を取得。世田谷区の区民成年後見人養成研修も修了しましたが、「資格を取っただけでは何もできない」と感じまして。
私は自分の娘に障がいがあり、「自分たちがいなくなったあとはどうしよう」と常々考えていたため、「せっかく取った資格を、障がい者福祉の分野で活かそう」と思うようになり、今、ここに至りました。
生田目:親としてのリアルな悩みを原動力にして今の活動につなげられたんですね。
渡部:はい。そもそも「親なきあと問題」とは、親が亡くなる、あるいは認知症などにより、子どもの面倒をみられなくなったあと、障がいのある子がどのように生活していくのか、安心して地域で暮らせるのかという漠然とした不安を指します。特に、お金や住まい、日常生活の支援など、複数の課題が複合的に存在し、それらを包括的に準備する必要があるという問題といえます。
私もこれまで、福祉、相続、信託などに関する本やウェブサイトをたくさん見てきましたが、そこに書いてあるのは専門的なことばかり。でも、親は各分野にそんなに詳しくならなくていいんですよ。必要なことだけをちょっとずつ知っていれば十分なんです。なので「私がさまざまな分野を幅広く知って相談の入り口となり、専門家や制度につなぐ橋渡し役になろう」と思って、この「親なきあと」相談室をスタートさせました。
生田目:専門領域ほど導き手がほしいですものね。先生の相談室はどのようなかたちで相談を受けているんですか。
渡部:ネットでは随時相談や質問を受けつけています。7年ぐらい前からは、障がい者団体などに支援・助成を行っている一般財団法人ゆうちょ財団から依頼を受けて、月2回予約制の個別相談も実施しています。さらに、東京都多摩市の社会福祉協議会からの依頼を受け、毎月1回、多摩市でも予約制の個別相談会を行っています。多摩市の場合は在住の方限定ですが、ゆうちょ財団は全国の方が対象なので、遠方の方はオンラインで相談をお受けしています。
生田目:先生はどのようなところをいちばん意識して相談者をサポートされているのですか。
渡部:最大のポイントは、「いかに地域につなげるか」です。親が急にいなくなっても、子どもが住んでいる地域の誰かとつながっておけば、何とかなる。誰かが何とかしてくれるものです。たとえば、親の遺産を相続したら、行政が成年後見人をつけてくれます。とはいえ、親が事前にある程度のお金や住まい、制度を準備しておけば、本人も親なきあと安心して豊かな生活が送れるので、そのための知識を私がお伝えしているわけです。
それから、親やきょうだいの不安に耳を傾けながらも、本人の意思をいちばん大切にしています。重度知的障がいだと意思を引き出すのは難しいところもありますが、試しに短期入所(ショートステイ)などのあるグループホームなどに泊まらせてみて、荒れて帰ってきたら、「この子、ここは嫌だったんだな」とわかるはずです。また、親は施設やグループホームに入居させるほうが安心かもしれませんが、子どもは一人暮らしをしたいかもしれません。
ただ、一人暮らしをするにしても、地域のつながりがないとできません。むしろ、「できないこと」の支援が必要になるので、より地域との連携が重要になってきます。

生田目:お金とか住まいの話はまだほかで聞くこともできますが、地域のつながりの重要性まで教えてもらえる場は少ないので、そのお話は貴重ですね。地域の情報はどのようにして得ればよいのでしょうか?
渡部:私は情報を得るためには家族会に入るのがいいと思います。家族会は口コミの情報が広がるので、お住まいの地域の手をつなぐ育成会や自閉症協会、ダウン症に関する家族会や支援団体などに入って、地域の情報を得ていくのがおすすめです。その家族会が小さいものだったとしても、地域のさまざまな家族会の人たちが集まって、たとえばですが、 “障害者連絡協議会”のような広いつながりができることもありますから、自治体の情報も入りやすくなるだろうと思います。
また、就労しているような軽度な障がいの子は、あまり福祉と関わらないので、どのように地域とのつながりをつくるかも考える必要がありますね。軽度の障がい者の余暇活動を支援し、運動教室や音楽教室を実施するNPO法人などもあるので、そういった場所とつながれるといいのではないかと思います。











