人の福祉と動物愛護をつなぐ一般社団法人「HugKu-Me(はぐくみ)」を2022年に立ち上げ、障がいや困難を抱える若者たちの就労支援に取りくむ牛島加代(うしじま かよ)さん。保護犬・猫カフェや子ども食堂の運営、就労支援、地域猫活動、動物愛護教室など、地域社会と連携した複合的な福祉モデルを推進する牛島さんをお招きし、障がい者の自立支援などについて、すばるコレクト運営の生田目康道がお話をお聞きしました。(取材:2025年5月13日)

地域住民と障がいのある方がおたがいにやさしい心をはぐくめる場を

生田目康道(以下、生田目):今回は、人の福祉と動物愛護をつなぐ団体を立ち上げ、障がいや困難を抱える若者たちの就労支援にも取りくむ牛島加代さんにお越しいただきました。牛島さん、どうぞよろしくお願いいたします。

牛島加代さん(以下、牛島):こちらこそ、よろしくお願いいたします。

生田目:まずは、牛島さんのご経歴をお聞かせくださいますか。

牛島:私は2007年に千葉県八千代市にトリミングサロンをオープンし、その後、保護犬・猫のボランティアトリミングや譲渡に関わるようになりました。2013年には動物愛護団体「まめんち」を、2022年には人の福祉と動物愛護をつなぐ一般社団法人「HugKu-Me(はぐくみ)」を設立しています。

生田目:9月上旬(予定)、千葉県八千代市に、牛島さんも関わる新たな施設がオープンするんですよね。

牛島:「ROGICA Fields(以下、ロジカフィールド)」という名前の複合施設です。私が運営するのは、トリミングサロンと子ども食堂、ドッグカフェです。施設の中にはほかに、高齢者向けのデイケアサービスや子ども向けの放課後等デイサービス、ゴルフ練習場、フットサル場などもあります。
ロジカフィールドには障がいのある方が働く場をつくることも計画しています。地域の方が集まる施設に、障がい福祉の視点が入っているのが大きな特徴で、障がいのある方とそうでない方が一緒に働く場を提供することに力を入れています。ひとことで言うと、地域の方と障がいのある方が共生する街をつくるプロジェクトなんですよ。

牛島:私自身、福祉に興味をもつまでは、障がいのあるお子さんは学童保育に預けづらい現状(人員不足などの体制上の問題として)があるということや、療育や発達支援を目的とした放課後等デイサービスが、その補完的役割を担っているという実際を知りませんでした。でも、地域のコミュニティのなかに障がいのある方が溶け込んでいれば、地域のみなさんに障がいのことや、障がい福祉は必要なんだということを、理解していただけるのではないかと思います。

生田目:障がいのあるお子さんの視点からみても、ここに来れば犬や猫がいますし、いろいろな立場や年齢の大人ともふれあえる。多彩な経験ができるということになりますね。

牛島:はい。地域住民のふれあいの場に保護犬・猫がいることで、「動物に真ん中にいてもらって、地域の方たちと障がいのある子たちがコミュニケーションをとり、おたがいにやさしい心をはぐくめるようにしたい…」というのが、私たちのテーマなんですよ。


生田目:そもそも、牛島さんが動物愛護活動をはじめたきっかけはなんだったのですか?

牛島:小学生時代に遡ります。私は転校生で、最初は友達がいませんでした。そんなときに、1頭の野良犬(所有者不明犬)が友達になってくれたのです。ところがある日、そのコが殺処分されてしまいました。そのとき「同じ命なのに、なぜ?」ととても疑問を感じました。それから、小学生のときにはすでに「大人になったら動物の保護活動をしよう」と決めるようになりましたし、中学生のときには「野良犬に仕事を与え、社会の役に立つと示すことで、生きるチャンスを与えたい」と考えるようにもなりました。

「動物がかわいそう」という感情論だけでは、野良犬・猫の問題を解決することはできません。でも、動物が人の役に立ち、人を幸せにできることを証明できれば、この子たちにも生きる道が生まれるのではないかと思ったのです。

「ならば、私はまず犬のプロになろう!」と、トリマーになる道を選びました。その後、トリマーとして動物愛護活動を行うようになり、動物愛護教室のセラピードッグとして保護犬をワーキングドッグ(※1)に育てたんですよ。

※1 ワーキングドッグ:使役犬。人の助けになる仕事をしている犬たちのこと

生田目:なるほど、子どものころの原体験から動物に関わるようになったんですね。牛島さんはお子さんの学校のPTA活動も積極的に担ってきたそうですが、そこでも今の活動につながるような気づきや体験があったんですよね。

牛島:ええ。うちの子どもが通う小学校には特別支援学級がありますが、いわゆる境界知能・グレーゾーンといわれるような子どもたちは、保護者の教育方針などから通常学級に通うものの、なんらかの理由で、保健室登校になったり不登校になったりするケースが多く見受けられました。発達に課題を抱えているお子さんが置き去りにされているように私は感じてしまい、モヤモヤが募りました。

そんな思いは、私自身が中学生時代のボランティア活動で感じたことにもつながります。当時、友人たちが、ろう学校や養護学校(現 特別支援学校)へそれぞれカテゴリに分けられて進学していく様子をみて、まるで社会と分断されていくように感じてしまい、「みんなが理解しあってなかよくできたらいいのにな」と感じていたのですよね……。