お話をうかがったのは、
松実高等学園初等部校長 葛󠄀貫 庸子(くずぬき ようこ)さん
小学校教諭一種免許および公認心理師資格をもち、大学院修了後、松実高等学園に勤務。以降、児童・生徒の多様な学びを支える教育実践に取りくみ、他校にはないユニークなカリキュラムや体験活動の企画・運営を主導。2025年度からは中等部の統括も担い、初等部・中等部・高等部をつなぐ一貫した教育環境づくりに尽力している。
どんなときも子どもに寄り添い、心のエネルギーを補充してあげよう
Q1 子どもが学校に行けなくなったとき、まずはどのように受け止めたらいいの?
A1 保護者の意見をはさまず、共感しながら話を聞いてあげましょう
子どもからの「学校に行きたくない」ということばは、それまで必死にがんばってきたことへの「もう無理。助けて!」というSOSです。まずは「学校に行きたくない」という子どもの思いをそのまま受け入れ、寄り添う姿勢が必要になります。子どものことばを一つひとつ丁寧に拾って、「そうだったんだね」「つらかったね」と共感的な相づちを挟みながら、じっくり耳を傾けてください。
話の途中で、保護者は「それは違うよ」と子どもの思いを否定したり、「~したらいいんじゃない?」とアドバイスをしたりしたくなるかもしれません。ですが、そこはぐっと我慢を。とにかく聞き役に徹して、子どもの気持ちをすべて受け止めてください。間違っても「そんなことくらいで学校に行けないなんて!」などと、感情的になって子どもを責めてはいけません。
年齢や特性の重さによっては、学校に行けない理由があってもうまく話せない子もいます。自分でも理由がわからなかったり、自分の気持ちを言語化できなかったりすることもあります。そのようなとき、原因を探すことに必死になるのはやめたほうがいいでしょう。子どもは何度も追求されるのがつらくてますます心を閉ざしますし、エネルギーを消耗して親子ともども疲弊してしまうからです。実際、学校に行けなくなる原因は一つではなく、さまざまな要因が積み重なっている場合が多いと思います。ですから、原因を知ったところで単純な解決策がないこともまれではないのです。
原因究明よりも、「話したくなったらいつでも聞くよ」という姿勢を示し、子どもがリラックスできる雰囲気をつくることを優先しましょう。気持ちを打ち明けられるまでそっと見守り、家庭を子どもの「安全基地*」にすることを第一に考えてください。家庭で心のエネルギーを補充し、楽しい経験を重ねていけば、時間とともに気持ちが変化したり、自分の思いを伝えることばを獲得したりすることも多いのです。
小さい子どもや障害の程度により気持ちを言語化できない場合は、子どもの様子をよく観察し、食欲がない、眠れないなどの身体症状をキャッチして、親のほうから「学校で何かあったかな?」「何か言われた?」などと聞いてみるのもいいかもしれません。
*安全基地とは、心理学者J.ボウルビー(John Bowlby)が提唱している、不安や恐怖を感じたときに逃げ帰ることができる安心できる場所のことです。

Q2 不登校になってから、子どもが自信をなくして元気もない。大人はどう関わったらいいの?
A2 「あなたの味方だよ」「そのままで大丈夫」「あなたのことが大切だよ」と繰り返し伝えて
不登校の子どもは、孤立してしまう不安や恐れ、孤独感、罪悪感など、複雑な気持ちを抱えています。「学校に行ったほうがいい」ということは、子ども自身がよくわかっているので、「休んでいる私は悪い子だ」「情けない」などと、自分を責めてしまうケースも多いのです。また、小学校高学年くらいになると、友達と自分を比較して自信を失い、それが強いストレスになっていることもあります。
そのようなとき、まわりの大人は「どんなときでも私はあなたの味方だよ」「あなたのことを大切に思っているよ」と伝え続けることが大切です。「テストで100点を取ったからすごい」といった条件づけをしてほめたり、認めたりするのではなく、存在そのものを認めてあげてください。「あなたはそのままでいいんだよ」「そのままのあなたが大切なんだよ」と、繰り返し繰り返しことばや態度で示しましょう。
お手伝いをしてもらうことも有効です。「自分はこれができる」という家庭のなかで役割があり、家族の役に立っていると感じることは、子どもの自尊感情をアップさせ、「役割=居場所がある」という安心感や自信につながります。さらに、毎日のお手伝いには、不登校時に陥りがちな昼夜逆転生活を防ぎ、生活のリズムを整える効果もあります。ただし、家族が一方的に「皿洗いをして」と役割を押しつけるのは避けましょう。自分は何がしたいのか、何ならできるのかを子どもに考えさせて一緒に決め、当番表をつくるなど、発達特性のある子にも役割が伝わりやすい工夫をしてください。
子どもがお手伝いをしてくれたら、具体的にほめて感謝の気持ちを伝えましょう。単に「ありがとう」と言うのではなく、「お母さんより上手にお皿を洗えたね」「今日は疲れていたからこれをやってくれて助かったよ」と、「あなたのことをちゃんと見ているよ」「家族はあなたに助けられているよ」と思ってもらえる声かけが大事です。
もし、子どもがお手伝いを忘れたりさぼったりしても、責めないでくださいね。「次はお願いね」と明るく次回につなげましょう。保護者が「じゃあママが手伝うよ」などと、できないときの対処法を示すのもいいと思います。ときには「今日はママも疲れたから夕飯はスーパーのお総菜ね」と、あえて大人も完ぺきじゃない、ダメな部分もあることを、子どもに見せてもいいのではないでしょうか。

▲松実高等学園初等部の教室に掲示している「声のものさし」











