神奈川県にある星槎中学校の副校長を務める、佐藤由加子(さとう ゆかこ)さん。20年以上にわたり、発達特性のある子や不登校経験のある子など、多様な背景をもつ子どもたちに向けて、共生社会をつくるための教育を実践してきました。そんな佐藤さんをお招きし、星槎中学校の特徴やそのめざす教育について、すばるコレクト運営の生田目康道がお話をお聞きしました。(取材:2025年4月25日)

星槎の最大の特徴「個別指導計画」は子どもの教育カルテ
生田目康道(以下、生田目):今回は、生徒一人ひとりの特性や状況を丁寧に理解し、個別指導計画を通じて、“その子らしい育ち”を支える教育を行っている佐藤先生にお越しいただきました。佐藤先生、どうぞよろしくお願いいたします。
佐藤由加子さん(以下、佐藤):こちらこそ、よろしくお願いいたします。
生田目:まずは、佐藤先生のご経歴をお聞かせくださいますか。
佐藤:私は大学院で文学修士を取得した後、1998年に宮澤学園中等部という星槎中学校の前身のフリースクールに入社しました。きっかけは、大学時代の発達障がい児ゼミの教授から宮澤学園中等部を紹介されたことです。じつはその教授は、星槎大学初代学長の故・山口薫先生でした。見学にうかがったときに「私がいるべき場所はここだ!」と思い、そこからフリースクール時代の7年間、星槎中学校になってからの20年、ずっと星槎グループの学校に勤務しています。
生田目:ありがとうございます。星槎の大きな特色といえば「個別指導計画」ですよね。具体的にはどういうものでしょうか。
佐藤:「個別指導計画」とは、その生徒に必要な対人面・生活面・学習面などの目標を、一人ひとりに合わせて設定したものです。この目標は、職員全員でさまざまな角度からその生徒の行動を観察し、心理検査の結果や保護者の方のご意見も反映させて、設定します。カードなども使い、生徒が目標に取りくみやすいよう工夫しています。1日の終わりには担任との「振りかえりの時間」を持ち、情報は保護者とも共有しています。

生田目:会社員である私から見ると、個別指導計画は、会社が社員に対して行う目標設定の仕方に非常に近いものがあるように感じます。個別指導計画は、どのようにして制作されるのですか?
佐藤:制作するのは担任です。保護者の方といろいろお話をさせていただいて決めていきます。しかし、実行するのは本人ですので、基本的に本人が納得しないと個別指導計画は作れないことになっています。「あなたの目標はこれだよ。こういうことを頑張ろうね」と言っても、本人が拒否することもあるのです。そこをうまくもっていくのが担任の手腕でもあるので、教師は生徒たちに納得してもらいやすい面談を心がけています。その際には、「こんなの無理だ」という高い目標ではなく、「これだったらできるかな」と生徒に思ってもらえる目標を設定しておくことがとても大事になります。
生田目:そこは会社でも本当に難しく感じています。参考までに、佐藤先生は生徒が納得しやすいように、どのように目標の難易度を設定していますか。
佐藤:中学生活に不安を抱えている子が多い中1の目標は、スモールステップにして、絶対に達成できるであろうラインに設定します。それができたら、次の小さなステップをプラスしていきます。たとえば、「朝登校したら職員室にあいさつをしに来る」という目標を設定したとします。その子がこの目標を達成できたら、「職員室にあいさつをしに来て、担任の先生を呼んで今日1日のことを確認する、もしくは話をしてみたい先生を呼んで、インタビューをしてみる」などと、目標ラインを少しずつ上げていくのです。