このままの生活で大丈夫なのかと保護者が子どもの学校生活に不安を感じることがあります。このコーナーでは、医療・福祉・教育(保育)など、さまざまな現場で経験を積んだ先生方が、発達特性のあるお子さんとの日常で「困った!」と感じる場面について、保護者の気持ちに寄り添いながら、一緒に考えていきます。

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●今回のお悩み●
このまま通常学級にいてよいのか悩んでいます

知的障害のない自閉スペクトラム症(ASD)の息子で、悩んだ末、中学校は通常学級に通っていますが、担任の先生から電話がきて授業中に高い声が出てしまっているようで授業が進めづらいようです。本人は知り合いがいるために自分が同じ学校の通常学級から特別支援学級に行くのはプライドがあるそうで、拒否しています。しかし、クラスになじめずお友達同士のいざこざもよくあり、このまま在籍することに厳しさを感じています。本人の想いをこのまま優先すべきでしょうか?

「通常学級か、特別支援学級か」――親だけで選択を悩まないこと

正解はない。30歳の未来を見据えて、今を考えてみましょう
 
 とても悩ましい問題ですよね。どちらを選んでも簡単ではなく、「この選択で本当にいいのだろうか」と何度も立ち止まり、胸の奥が苦しくなることもあると思います。

 お子さんの気持ちを大切にしたい。同時に、このまま環境を変えずに本当に大丈夫なのかという不安も消えない……。
その間で揺れ動く親の心は、とても自然なものです。

 迷ってしまうのは当然のことで、わが子の人生を真剣に考えているからこそ生まれる葛藤です。そこで、少し視点をわが子の未来に移してみましょう。

「子どもが30歳のとき、どんな大人になっていてほしいのか」

 この問いは、今の状況や進路を考えるうえで、とても大切な軸になります。大切なのは、何でも自分でできる完璧な大人をめざすことではありません。自分の特性を理解し、苦手なことは助けを求め、得意なことや好きなことを大切にしながら、「自分はこれでいい」と思えている大人ではないでしょうか。

 その土台となるのは、学力や所属先ではなく、「自己肯定感」――つまり心の安定です。
発達障害支援の本質は、実は「心の支援」です。

 授業中に高い声が出てしまうこと、友人関係でいざこざが起きることは、決してわざとでも、甘えからでもありません。強い緊張や不安、自己調整の難しさから生じる、「困っている」「助けてほしい」という心のサインといえるでしょう。

 先生が授業の進めづらさを感じている一方で、本人は相当な負荷を抱えている可能性があります。
 「通常学級のままでいたい」「特別支援学級に行くのはプライドが許さない」―― そのことばの奥には、これ以上傷つきたくない、劣っていると思われたくない、居場所を失いたくない、というようなそんな必死な想いがあるのではないかと考えます。

 そうした本人の気持ちは、年齢相応で自然なものであり、尊重されるべきものです。ただ同時に、その選択が本人の心を守っているのか、それとも追い詰めているのかを、大人が見極める必要があります。

 いま、「注意や指摘が増えている」「友人関係のトラブルが頻発している」「クラスの中で“浮いた存在”になっている」。こうした状況が重なっている場合は、自己肯定感が静かに削られていく危険性があります。中学生の時期にこの状態が続くと、「学校=否定される場所」という認知が固定化し、不登校や二次障害につながることも少なくありません。

 ここで大切なのは、「通常学級か、特別支援学級か」という二者択一にしないことです。地域によって運用がかなり異なることが多いため、まずは在籍している学校と相談することが必要ですが、通常学級に在籍したまま通級による指導を組み合わせる、特定の教科のみ支援を受ける、期間を決めて環境を試してみる、などの段階的で柔軟な選択もあります。その際は、「どこに行くか」ではなく、「どこなら安心して力を伸ばせるか」という表現を用いて本人と話してみてください。

 まずは、学校・保護者・関係機関が情報を共有するケース会議を行うことが大切です。ケース会議では、発達検査の結果や可能な場合は医師の意見を踏まえ、本人の得意なことや困りごと、環境面での配慮について整理することにつながります。

 発達障害支援の基本は、「認めて・褒めて・大事にすること」だと私は保護者や支援者へお伝えしています。環境を変えることは、逃げでも負けでもありません。それは、30歳のときに自分を大切にできる大人になるための、前向きな選択ともいえるでしょう。

最後に、お悩みを寄せてくださったお母さんへ。
 お母さんの悩みの根底にあるのは、「あなたの気持ちは大切にしたい。でも、あなたの心が壊れてしまう選択は、してほしくない」という、深い愛情です。
 迷いながらで大丈夫です。揺れながら考えるお母さんの姿そのものが、すでに最高の支援です。
どうか、お母さんご自身のことも、認めて、褒めて、大事にしてくださいね。


今回のお悩み回答者: 津守 慎二(つもり しんじ)さん

一般社団法人 日本医療福祉教育コミュニケーション協会常務理事
日本小児心身医学会員
高校教員免許

1987年から岡山県で複数の専門学校講師を務め、2011年、知人の紹介で発達障がい児支援施設を見学し、社会における発達支援の重要性を知る。2012年、岡山県倉敷市に「学習支援レインボー教室」を設立。小児医療やカウンセリングについて学びを深め、全国で1万5千名以上の発達障害児支援者に向けてセミナー開催。
現在は教室運営にて約250名の子どもを支援するかたわら、指導者の養成、講演活動などで全国を飛びまわる。子どもの心を元気にする専門家でもある。

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