2025年12月20日(土)~21日(日)、全国障害者総合福祉センター 戸山サンライズにて、「第47回 総合リハビリテーション研究大会」が開催されました。編集部は12月20日(土)に参加してきました。その模様をレポートします。

支援者と当事者両方の視点から、これからの特別支援教育を考える

【主催者挨拶】炭谷 茂先生(日本障害者リハビリテーション協会会長)

 炭谷先生は以前からソーシャルインクルージョン(弱い立場の人も誰一人取り残さず、社会参加でき、共生をめざすという理念)の推進に努め、特にインクルーシブな教育と就労の重要性を提唱しています。しかし日本では、発達特性をもつお子さんの保護者からは、通常の学校でのいじめや不登校への不安を述べられる一方で、発達特性のないお子さんの保護者からは学校全体の教育水準の低下を懸念してインクルーシブ教育への反対論が依然として根強くあります。国連からも日本のインクルーシブ教育への遅れを指摘されているそうです。先生は医療的ケア児支援にも尽力し、教育と就労の改革こそが、誰もが地域の一員として安心して暮らせる社会を実現する鍵であると強調されました。


【基調講演】教育を総合リハビリテーションの観点から考える~特別支援教育とこれからの教育を改革するために~
松矢 勝宏先生(東京学芸大学 名誉教授、本大会実行委員長)


 東京学芸大学名誉教授の松矢先生は、日本の障がい者福祉・教育の歴史を振り返り、多くの先人たちの地道な活動と功績を称えました。不登校の増加など子どもの幸せが問われる現代において、障がいのある人々の社会参加には教育と就労が不可欠であると強調。本人の意思を尊重した個別の支援計画やキャリア教育の重要性を訴え、NPO活動を通じて就職率向上に貢献した実績も紹介されました。今後は、国際生活機能分類(ICFモデル)を共通言語として活用し、個別支援計画をさらに発展させ、誰もが地域で自分らしく生きる社会の実現をめざすべきだと語られました。


【鼎談】これからの教育の改革に向けて
菊地一文先生(弘前大学大学院教育学研究科 教授)、山中冴子先生(埼玉大学教育学部 准教授)、松矢勝宏先生


 鼎談では菊地先生、山中先生、松矢先生の3名が、日本のインクルーシブ教育の課題と未来について議論されました。
 菊地先生は、文科省が実施している「インクルーシブな学校運営モデル事業」における特別支援学校と小中学校の「交流及び共同学習(障がいのある子どもとない子どもが学校教育の一環として活動をともにすること)」を通じた「共にいることが当たり前」な環境と、本人の主体性を尊重する「相互発達」の重要性を強調しました。

 山中先生からは、インクルーシブ教育の実現に向けて、国際社会から、日本にはいくつか課題があると指摘されているというお話がありました。そのなかでも、子どもの「意見を聞かれる権利※1(ビュー※2)」保障と学習指導要領の「柔軟性」が質の高い教育に不可欠だと訴えました。

※1 子どもが自分にかかわることについて自由に考えを述べ、その考えがきちんと受け止められ重要視される権利(児童福祉法)。

※2 子どもが世界をどう見ているのか、どう感じているのか、何に興味をもち、何を大切にしているのかといった、その子自身の主観的な体験や思い・願い。


 松矢先生は、インクルーシブな学校運営モデル事業による「わかる、できる、楽しい」授業づくりの重要性を語り、子どもに適した教育環境の実現が教育課程改革の中心であるべきだと締めくくりました。


【セッション1】不登校の理解と支援~不登校経験者の報告から学び、支援の在り方を考える~
話題提供者:不登校経験者(Aさん)、不登校・ひきこもり経験者(Bさん)、不登校経験者の親(Cさん)、井村良英さん(認定NPO法人育て上げネット 執行役員)
コーディネーター:伏見明さん(東京都教育庁 都立学校特任相談役)



 「一人ひとり得意なことと苦手なことがあるのは当たり前」。小中学生のころに不登校を経験したAさんのこのことばから始まったセッションは、学校生活や社会との向き合い方に悩む子どもたち、そしてその家族、支援の現場で活動する方々が、それぞれの「心の声」を深く分かち合う貴重な場となりました。

当事者の苦悩と、新たな道で得た「自分らしさ」

 Aさんは、学校での経験を振り返り「得意なことと苦手なことがあるのは当たり前なのに、体育のサッカーなどのチームプレーになると、苦手な人は“邪魔な人”だと思われてしまう」と、集団のなかで抱いていた疎外感を吐露しました。また、不登校・ひきこもり経験をもち、30代で発達障がいの診断をされたBさんは、「できない人がいたときに、少しでも見方を変えてほしい」「高校生のときに発達障がいに気づけていたら、違ったかもしれない」と述べ、理解の欠如や特性への無理解が学校生活をより困難なものにしていた可能性について、切実な思いを語りました。

 しかし、Aさんは通信制高校での経験を通じて、「時間ができて、イラストや音楽、作曲に没頭できて、自分に余裕ができた。小中学校では余裕が全然なかった」と語り、不登校が「よかったとは言えないけれど、後悔はしていない。没頭できる時間があって自分の好きなものがわかったから。糧にはなった」と、自分らしい道を見つけたよろこびと前向きな姿勢を示しました。


親の葛藤と、支えとなった「信じて待つ心」

 不登校経験者の親であるCさんからは、娘さんが「起立性調節障害だった」こと、受験期に「スクールカウンセラーから高校へは行かない選択肢を提案されて、娘はそれならもう行かなくていいよ!と、それまでの重圧から解き放たれたようだった」という、当時の親子の受け止め方の変化が語られました。一方で、娘さんが、「お休み中にいろいろと考えて通うことができました」と新たな道を見つけたことに安堵する様子がうかがえ、「スクールカウンセラーには気持ちを話せて救われた」と専門家サポートの重要性も指摘しました。Cさんはまた、「私自身は、物事を信じて待とうといってくれる人が欲しかった。校外でも競争にさらされていたから」と、親自身も孤立しやすい状況のなかで、共感と信頼がどれほど大切かを訴えました。

 他愛のない話ができる友人の必要性を訴えるBさんに対し、Cさんは「SNSで“アイドル推し友だち”と一緒にしゃべっていて、一人ではなかった」という、現代的な繋がり方が心の支えになった事例も共有されました。

支援の現場から見える課題と「ええでええで」の温かい寄り添い

 認定NPO法人育て上げネット執行役員の井村良英さんは、少年院出所者の進路支援に携わるなかで、少年たちが子ども時代に、身近な人たちから繰り返し傷つけられ続ける環境にいたことを知り、保護者でもなく、教員でもない立場で子どもたちにできる支援として朝、校門の前に立ち続ける活動を紹介。「子どもの自殺者が過去最多」といった厳しい現状を指摘しました。文部科学省のCOCOLOプランが「学びの保証しかされていない」「子どもたちの健康もみんなで保証すべき」と現状への課題意識を示し、「困っている子どもや保護者を励ましたり指導したりするのではなく、まずは一人ひとりの存在に対して『ええでええで』と声をかけ続けている」と、寄り添う支援の姿勢を語りました。井村さんはさらに、「理解できない人の話こそ、ゆっくり聞くことが大事」ということばで、傾聴と共感の重要性を強調しました。

 東京都教育庁都立学校特任相談役の伏見明さんは、「家族で抱え込むことが多い社会」という現状にふれ、「理解することが支援」であると強調。不登校という経験を、その後の人生において「ポジティブな経験に変えられないだろうか?」と、未来に向けた前向きな変化への期待を述べられました。


▲コーディネーターの伏見明さん


理解と共感が織りなす、これからの社会へ

 このセッションを通じて、不登校の背景には多様な要因があり、当事者やその家族が抱える苦悩の深さが改めて浮き彫りになりました。同時に、柔軟な学びの場の可能性や、専門家、NPO法人などによる地道な支援の重要性も示されました。
 Aさん、Bさん、Cさんそれぞれの経験、そして井村さん、伏見さんのことばから共通して見えてくるのは、困難を抱える子どもたちの「心の声」に耳を傾け、彼らが安心して「自分らしさ」をはぐくめる環境を、地域社会全体で共に創り上げていくことの必要性です。一人ひとりの個性と可能性を信じ、共に歩む姿勢が、誰もが安心して生きられる社会への確かな一歩となるでしょう。


▲来場者との「意見交換会」の様子

 2026年 第48回総合リハビリテーション研究大会は石川県立音楽堂(石川県金沢市)にて2026年11月14日(土)、15日(日)に開催予定です。詳しくはこちらのページをご確認ください(https://rehab-hp.normanet.ne.jp/)。

【お問い合わせ先】
■公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会 「第47回総合リハビリテーション研究大会」事務局
MAIL:rehab@dinf.ne.jp


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