子どもの「困った行動」の裏には、必ず“困っている気持ち”があります。このコーナーでは、医療・福祉・教育(保育)など、さまざまな現場で経験を積んだ先生方が、発達特性のあるお子さんを育てる保護者の悩みに寄り添いながら、一緒に考えていきます。

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●今回のお悩み●
保育士の先生に叱られてしまいました…


 3歳の自閉スペクトラム症(ASD)の息子は加配の支援を受けて保育所に通っています。保育士の先生から、気に入らないことがあったときに誰かをたたく息子について、「叱るときはしっかりと叱らないとわからない。もっとお母さんは強く叱ってください」と言われましたが、語気を強めるとパニックになってしまい、癇癪もひどく悪化してしまうので本当に強く叱るのがよいのか悩んでいます。

「叱る」よりも「伝える」――3歳のお子さんに届く関わり方とは?

息子さんの“困り感”を理解することから始めましょう

 お母さま、ご相談をありがとうございます。まずは、結論から申し上げますね。
息子さんは、この世に生まれてまだたったの3年です。
 今は、安心して生活し、人を大好きになってもらうことが大切な時期だと思います。強い口調や態度は、心を閉ざしてマイナス行動やパニックを招くだけですからよい方法だとは思えません。

 もっと息子さんやご家族に幸せをもたらす方法があるはずです。加配を受けて保育所生活を過ごすなかで「気に入らないことがあるとたたく」と保育士さんから困り感を伝えられたとのことですが、保育士さんが困っているのなら、息子さんこそが、もっともっと困っているはずなのです。

 息子さんがどんなことで困っているのかをきちんと理解するために、親という視点からではなく、冷静にそして科学的に息子さんの行動や反応を見つめ直してあげましょう。

 それは決して難しいことではありません。「どんなときならおだやかかな?」「どんなときにパニックになるかな?」と振り返ってあげればいいのです。

 家庭生活のなかでいちばんの困りごとは何でしょうか? もしおだやかに過ごしていられるようでしたら、息子さんにとって環境が整っているということです。

 集団生活は、大人でもストレスが大きいものです。3歳の男の子…そして自閉スペクトラム症(ASD)であるならば、なおさらのことです。

 保育士さんが「強く叱らないとわからない」とおっしゃったということは、先生は「強く叱ったら息子さんがたたくのをやめてくれた」という成功体験をおもちなのだと思います。

 ではご家族は「強く叱らなくてもマイナス行動をやめてくれた」という成功体験をこれから身につけていきましょう。

 「やめて!やらないで!」ではなく「〇〇してね」「△△しましょうか」とパニックになる前にわかりやすい指示や代替え案を叱らずに冷静に伝えてあげてください。STOPや禁止事項を伝えるばかりでは、息子さんだって楽しいはずがありません。

 息子さんは強く興味をもっているものや得意なことが必ずあると思います。今、深く寄り添って「自分をこんなにも愛してわかってくれる人がいるんだ!」ということを心に届けてあげましょう。

 何度もお伝えしますが、強く叱ったり語気を強めたりすることでは、よい結果は得られません。

 たとえ、その場は静かになったりあきらめたりしてくれることがあったとしても息子さんにとっては不本意な想いが積み重なって、いつか爆発してしまうでしょう。

 そして、強い口調の人(“怖い人”)の言うことしか聞かなくなり、安定した社会生活を送れなくなってしまいます。

 おだやかにはっきりと、一つずつ伝えてあげましょう。まだ3歳ですからことばだけでなくジェスチャー(ハンドサイン)を交えたり、見本を見せてあげたりしてもわかりやすくていいですね。

 きっとおだやかに過ごせる日が待っています。まだまだここだけでは伝えきれないことばかりです。また、ぜひ編集部へ成長を教えてくださいね!


今回のお悩み回答者: 中野 幸子(なかの ゆきこ)さん

埼玉県越谷市役所に入職し同市の公立保育園・知的障がい児施設・児童発達支援センターにて39年間勤務。その後、社会福祉法人の保育園園長を務め発達特性のある子どもたちを受け入れ、職員とともに療育を学び続けた。
さまざまな特性をもつ子どもたちや保護者と真摯に向き合ってきた療育保育のスペシャリスト。療育コンサルタントとして保育園の巡回指導および保護者様の相談者としても活動。2025年6月よりあさか保育人材養成学校 校長に就任。

発達特性のある子どもと家族のための進学・就労メディア
EDUWARD Press「すばるコレクト」特集インタビュー
 保護者の“障がい受容”~子どもの発達特性を受け入れるには~(https://subarucollect.jp/detail/220/)

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