重度障がい者の行動特性については、参考書にたくさん書かれています。しかし、生まれもった性格によって、一人ひとりの個性は違います。
 今回の事例は、発達特性による困りごとから二次的に生じた行動を消去することで、重度障がいのある方が自分らしさを取り戻していった事例になります。月に1回のドッグセラピーとして、食事時間を含めて5時間ほど犬と一緒に過ごすことで行動が変容した事例をご紹介します。

危ない行動を止めようとするも、かえって暴れてしまう

 Eさん(女性・20代・自閉スペクトラム症)は、ドッグセラピーの日にニコニコであいさつに来てくれます。日常の作業場での軽作業にも、頑張って取りくむことができます。誰からも好かれていて、笑顔がかわいい人気者です。

 昔のEさんには、「指先で土に穴を掘る」といった固執行動(強くこだわりを繰り返す行動)があり、それで気持ちを落ち着かせることができていました。穴を掘る場所は多様でしたが、固い地面を掘ることもあったため、Eさんの爪はボロボロになっていました。特に夏季は熱中症の心配もあり、日陰で土がやわらかい場所にEさんを連れていく必要がありました。

 しかし、固執行動を中断させるのは容易ではありません。最初はスタッフ1人でなんとか中断させていましたが、次第にEさんは暴れるようになり、スタッフ2人がかりでも抑えるのが難しくなっていきました。そしてピーク時には、声をかけるだけで怒りだしたり、施設で一緒に暮らす友人らにも暴力をふるったりするようになってしまいました。