お話をうかがったのは
「学習支援レインボー教室」グループ代表 津守慎二(つもり しんじ)さん

一般社団法人 日本医療福祉教育コミュニケーション協会常務理事。日本小児心身医学会員、高校教員免許取得。1987年から岡山県で複数の専門学校講師を務め、2011年、知人の紹介で発達障がい児支援施設を見学し、社会における発達支援の重要性を知る。2012年、岡山県倉敷市に「学習支援レインボー教室」を設立。小児医療やカウンセリングについて学びを深め、全国で1万5千名以上の発達障がい児支援者に向けてセミナー開催。
現在は教室運営にて約250名の子どもを支援するかたわら、指導者の養成、講演活動などで全国を飛びまわる。子どもの心を元気にする専門家でもある。

キーワードは「認めて、ほめて、大事にする」

Q1 発達特性のある子どもと生きるために大切なことや、ご家族の心のあり方について教えてください

A1 まずは子育ての目標をはっきりさせましょう


 発達特性のあるなしにかかわらず、子育てにおいて私がご家族に大切にしてほしいと思っていることは「子育ての目標をはっきりさせること」です。子育ての目標設定を「この子が30歳になったとき、どんな大人になっていてほしいか」に置くことです。そこから逆算すれば、今おのずとやるべきことがわかります。

 あなたは、子どもが30歳になったとき、どのような状態でいてほしいと思いますか? 
・高収入の職を得ていてほしいですか?
・社会で認められる人間になっていてほしいですか?
・配偶者や子どもをもうけていてほしいですか?
それもあるかもしれませんが、多くの親は、まずこう思うはずです。

「30歳になったとき、子どもには笑って楽しく暮らしていてほしい」

 そのためには、今、どうすればいいのでしょうか。
キーワードは、子どもを「認めて、ほめて、大事にする」ことです。詳しくみていきましょう。


Q2 発達特性のある子どもに欠かせない自立への支援とはなんですか?

A2 自立には、①経済的 ②社会的 ③心理的 の3種類があります


 発達特性のある子の親がもう一つ強く望むのが、子どもの自立です。これは前述した「笑って暮らせる30歳」になるためにも欠かせない要素でしょう。自立には次の3種類があります。
① 経済的自立
② 社会的自立
③ 心理的自立

 ほとんどの人が「自立」とは①経済的自立だと考えています。でも、発達特性のある子どもには、②社会的自立③心理的自立を支援することも、非常に大切なことなのです。


図1 子どもの自立
 発達特性のある子どもにとって、経済的自立だけではなく、社会的自立と心理的自立を支援することもとても大切です

 社会的自立は、経済的自立とも密接にかかわります。発達特性のある子どもも、学生時代なら、ある程度勉強ができればなんとか周りについていけるでしょう。でも、社会に出た途端、彼らは大きな壁に直面します。多くが、社会人に必須の基本的行動が苦手だからです。

 たとえば、「あいさつができない」「人の話を聞かない」「ミスが非常に多い」――こうした人は企業などで好まれず、働くことが困難になってしまいます。そうならないために、いろいろな人にもまれる経験をさせ、社会性を身につけておく必要があるのです。

 親が「この子はこれが苦手だから一切させない」という方針のままでいると、子どもは何もできないまま大人になってしまう可能性があります。苦手なことにも挑戦させ、できることを徐々に増やしていくのが、社会的自立の基本です。

 挑戦することによって、子どもは大きく成長するからです。発達特性のある子どもの発達具合は、環境による部分が6割ともいわれます。人は置かれた環境によって、人格もできることも大きく変わっていきます。ただし、子どもに挑戦させるときは、親がしっかり見守って、どんな結果になっても「認めて、ほめて、大事にする」こと。そうした「環境」に置かれた子は、おだやかで人にかわいがられる人間に育つといえるでしょう。

 心理的自立は、自分の長所も短所も認め、「自分は世界でたった1人の代わりのいない存在なんだ」と受け入れることから始まります。そう思えるようになるには、親子がかかわりあうなかで心理的な絆をつくっていく「愛着形成」がなされている必要があります。

 愛着形成は安心感や信頼感の土台となるものであり、子どもにとっての「心の安全基地」のようなものです。「ここは居心地がいい」「安心だ」という安全基地があれば、子どもは「何かあってもあそこに帰れば大丈夫」と思えるので、さまざまなことにチャレンジできます。失敗しても、次は頑張ろうと思える「折れない心」がもてるようになるのです。

 こうしてチャレンジを繰り返すことによって、子どもは自己肯定感が上がり、自尊心も養われます。苦手な他人とのつきあい方にしても、あれこれ試してみるうちに能力や感情のコントロール方法が身につくでしょう。こうしたことが、心理的な自立につながっていくのです。

Q3 子どもにさせたい経験にはどんなことがありますか?

A3 ①大切にされる ②「ありがとう」と言われる・言う ③信じてもらう の3種類があります


 自立した大人になり、笑って毎日を送れるようにするために、今、子どもにさせておきたい3つの経験があります。

①大切にされる経験
・「どうしてできないの」「なんでわからないの」といったことばで子どもを責める
・「うちの子に障がいなんてあるはずがない」と、子どもの現状を認めずに無理をさせる
・いちいちほかの子どもと比べて嘆く
 こうした家族に囲まれて冷たくされ、人に認められたり愛してもらったりした経験の少ない子どもは、他人や社会を恨むようになります。共感性も育たないため、身勝手な行動や自己主張をする大人になる危険性が高いと考えられます。

 子どもには、折に触れて
 「あなたが大切だよ」
 「今のあなたを愛しているよ」
 と、ことばだけではなく、行動でも伝えるように努めましょう。


図2 大切にされる経験
「あなたが大切だよ」「今のあなたを愛しているよ」ということをことばだけでなく、行動でも子どもへ伝えるように努めましょう

②「ありがとう」と言われる・言う経験
 発達特性のある子どもは、どうしても「してもらう」経験ばかりになりがちです。ぜひお互いに助けあう関係を築く練習をさせてください。簡単なお手伝いでもいいので、自分が他人に何かをして「ありがとう」と言われる経験をさせ、人の役に立っているという実感をもつことが、子どもの生きる力につながります。

 反対に、誰かに何かをしてもらったら、必ず「ありがとう」と言う習慣も身につけさせましょう。社会が障がいのある人への合理的配慮を進めるなか、「配慮してもらって当然」という態度でお礼も言わない相手には、周りも人間なので正直いい気分はしないでしょう。
 あいさつはコミュニケーションの第一歩です。社会性を身につけさせるためにも、「ありがとう」が言えるようにぜひご家庭でも練習してください。


図3 「ありがとう」と言われる・言う経験

③ 信じてもらう経験
 子どもを信じていないからこそ、子どものやることなすことに口を出したくなるのです。親の過干渉は、子どもの生きる力を育むためにはマイナスでしかありません。「学校に遅刻したらたいへん」と、毎朝親が必死になって子どもを起こすのではなく、時にはあえて遅刻をさせてみてください。

 子どもには失敗する権利があります。失敗したとき、どう対応するかを自分で考え、行動することによって、人は大きく成長するのです。失敗しても許される子ども時代に、ぜひたくさん失敗の経験を積ませましょう。親は子どもの力を信じて見守ってください。