お話をうかがったのは
東京科学大学リベラルアーツ研究教育院
教授 水野 智美(みずの ともみ)さん
2000年、福山平成大学助手に着任し、2001年専任講師に。2005年より桜花学園大学助教授、2006年より近畿大学専任講師(のち准教授)、2009年より筑波大学准教授を経て、2025年4月から現職。専門はバリアフリー論、発達障がい児保育、障がい理解教育。
保育所や幼稚園などを巡回し、発達特性傾向の子どもへの支援、心理面での問題を抱えた子どもへの支援などについて、保育者や保護者の相談を受けている。著書に「具体的な対応がわかる 気になる子の偏食―発達障害児の食事指導の工夫と配慮」(チャイルド本社)、「偏食 遊び食べ 落ち着かない 発達障害の傾向がある子どものための食のサポートガイド」(メイト)など多数。
偏食の原因を推理ゲームのつもりで探してみましょう
Q1 うちの子、偏食がひどくて…白いご飯しか食べないのは、どうしてなの?
A1 口の中の感覚が鋭敏すぎる、知らない食べものに不安を抱いているなど、いくつかの原因が考えられます
発達特性のある子の偏食の原因で、いちばん多いのが感覚過敏です。口の中の触覚が非常に敏感なため、ゆでた野菜ですら固くて痛いと感じることがあります。味覚も鋭敏なので、熱を通した野菜を甘すぎると感じたり、いろいろな味が混ざったときの複雑な刺激を不快に感じたりすることがあります。
聴覚が鋭敏な子は咀嚼音が気になりますし、嗅覚が鋭敏な子はカレーのスパイス臭や酢のツンとしたにおいが苦手だったりすることも。なかには「この食べものの見た目がダメ」という子もいます。
感覚の異常は他人には理解しづらく、子どももことばで説明するのが難しいため、保護者は単なるわがままととらえがちです。子どもの感じ方の違いを受け止める姿勢が必要になります。

また、発達特性のある子は未知のものに強い不安を抱くので、食べたことのないものは味や舌触りがわからず、不安になります。すると、安心して食べられるもの、つまり「いつも食べている白いご飯」などに食事が偏ってしまうのです。
こうした極端な偏食は、発達特性のある子によくあるこだわりや思い込みの強さからくる場合もあります。「白いものだけを食べる」といった独自のルールをもうけていたり、「ご飯は白いものだから混ぜご飯はダメ」など「この食べものはこうあるべき!」という思い込みが隠れていたりすることがあるのです。
このほか、不器用でスプーンなどをうまく持てない、筋力が弱くて咀嚼や飲み込みが上手にできない、という子もいます。にぎやかな話し声がする学校給食など、家庭と違う刺激の多い環境に不安を感じている場合もありますし、「食べなくて怒られた」など食事の際に嫌な思いをしたことが原因になっている場合もあります。また、もともと食事に興味がない、食べる意欲があまりない子も少なくありません。
▲水野先生の研究室には、子どもたちが多様性を感じ取れるよう、さまざまな人を表現した人形が置かれていた。なかには、義足をつけたものや車いすに乗った人形もあった

▲さまざまな髪や目、肌の色を表現した人形を通して、子どもたちは個性を学ぶ機会を得ている。ヘッドギアを付けた女の子や、ハーネスを着けた盲導犬のパペットもあった
Q2 どうしたら偏食を改善することができるの?
A2 原因にアタリをつけ、超スモールステップで支援しましょう
まず、何が原因でその食べものが食べられないのかを見極めるために、子どもの様子をよく観察しましょう。同じ「食べない」でも、味覚の鋭敏さが原因の場合と、周囲への不安が原因の場合では、対応の仕方が変わってくるからです。
原因が取り除けるものであれば、「周囲の音が気になるならイヤーマフをする」などして原因を取り除いてください。そうでない場合は、スモールステップで改善していきます。
発達特性のある子の場合、「スモールステップ」とは本当に小さい、1ミリ単位のステップです。たとえば、白いご飯が食べられない子の場合、最初はご飯を見せるところから始めます。嫌がらないようなら、ご飯粒が1/4粒乗ったスプーンを持たせる。うまくいったらスプーンを口元に近づける。スプーンを口の中に入れてみる。ご飯粒をなめさせる。ご飯粒を1/2粒の大きさにする・・・という、ごくごく細かいステップを踏んでいきます。
子どもにわからないくらいのステップで、いつの間にかできている、というのが理想です。発達特性のある子は変化に適応することが苦手なので、食器や調理法、環境などがいつもと大きく違うと、不安が大きくなって食べられなくなることがあります。
子どもが少しでもご飯を食べたら、「できたね」「がんばったね」と大げさなほどほめてあげてください。偏食の子は食事をあまりおいしいと感じないうえ、食事の時間になると叱られることが多く、食事を楽しいと感じた経験が少ないものです。ですから、まずは達成感や喜びを感じさせることが重要になります。それが食べる意欲にもつながっていくからです。
ほめるレベルは「嫌いな牛乳のコップを見ることができた」「においをかぐことができた」「嫌いなものをはしで触ることができた」など、実際に食べる以前のうんと低いところに設定しましょう。子どもがどんなときでも必ずできるレベルでほめてください。
反対に、偏食を改善する際に、やってはいけないこともあります。
まず、食事中に何度も叱りつけること。箸を振り回すなど、危険なことは「ダメ」と教える必要がありますが、それ以外はなるべく目をつぶり、手づかみ食など食事に興味をもつ方向に行きそうなことは、とりあえず全部ほめましょう。
無理矢理口に入れて食べさせるのは絶対に避けてください。食べることを強要されると子どもには怖い記憶、嫌な記憶が残ってしまいます。するとその後何年も、何十年も、その食べものが食べられなくなることもあるのです。
「これを食べないと病気になっちゃうよ」などと脅して怖がらせるのもNGです。子どもはおびえてますます食べられなくなります。
好き嫌いが多い子によくする「隠して食べさせる」も、発達特性のある子には逆効果。嫌いなニンジンを細かくして好きなハンバーグに入れ、「ほら、ニンジン食べられたよ!」とほめたとします。すると子どもは「だまされた!」と思い、「今後何を入れられるか分からない」と不安になって、好きだったハンバーグも受けつけなくなることがあるのです。
そもそも、苦手な食材に気づかずに食べさせたところで、その食材を克服したことにはなりません。何を食べているかわかった状態で、自分ががんばった結果、食べられるようになった、という達成感が積み重なることで、「次も食べてみよう」という意欲がわくからです。
同様に「あと一口」と言ったあとに「食べられたからもう一口」と言うのも、子どもの信用を失うので避けてください。

偏食の原因はさまざまなので、対応方法もひとりひとり違います。たとえば「牛乳が嫌い」という子には、「味が嫌なのかな? じゃあココア味にしてみよう」「白い色が嫌なのかな? じゃあ中身の見えないコップに入れてみよう」など、子どもの気持ちに寄り添いながら、いろいろな対応方法を試してみてください。ダメでもいちいち落ち込まず「これじゃなかったか。ハイ次!」と、保護者も推理ゲームのつもりで楽しんでみるのがいいかもしれません。












