お話をうかがったのは、
一般社団法人 こども家族早期発達支援学会 会長 星山 麻木(ほしやま あさぎ)さん

東京学芸大学音楽科卒業後、特別支援学校で音楽教師を務める。退職後、横浜国立大学大学院修士課程(教育学研究科障害児教育専攻)を修了。東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻 (母子保健学教室)博士課程を修了。メルボルン大学客員研究員、鳴門教育大学障害児教育講座助教授を経て、2010年から明星大学教育学部教授。日本音楽療法学会認定音楽療法士であり、音楽ムーブメント療法士としても活躍。特別支援教育、障がい児教育、音楽療法、療育、発達支援を中心に活動し、感覚特性や就学支援プログラムの開発に関する研究を推進中。Tokyo Star
Radio(八王子FM)『星山麻木の子育て虹色ラボ』でパーソナリティーも務める。一般社団法人 星と虹色なこどもたち会長。

音楽療法とはことばに頼らないコミュニケーションの一つです

Q1 音楽療法ってそもそもどんなものなの?

A1 楽器などを使って子どもの心身や発達にプラスの影響を与えるためのものです


 「音楽療法」は、学校やピアノ教室で行われている「音楽教育」とはまったく異なるものです。楽器を使った音楽教育の目的は、リコーダーやピアノを間違えずに、上手に弾けるようになることでしょう。そこでは「みんなと同じように」もしくは「みんなよりうまく」楽器が弾けることが重要になります。

 しかし、音楽療法の目的は、子どもの心や体、知的発達を支えて、対人関係やコミュニケーション能力、機能回復などにプラスの影響を与えることです。その手段として音楽を用いているだけで、人によってはダンスやアートのほうが有効なこともあります。

 音楽療法は楽器の上達や「みんなと一緒」をめざしません。子ども一人ひとりの個性や状況、保護者のニーズに合わせながら、その子が自分を解放して幸福を感じられる時間をつくり、子どもの命や存在を丸ごと受け入れるために行うもので、ことばを超えたコミュニケーションの一つといえます。


▲音楽療法では、さまざまな楽器のなかでその子に合ったものを使用します。

【参考動画】
「クリエイティブ音楽ムーブメントのご紹介(8分間ロングバージョン)【星山研究スタジオ】療育 支援教育(星山研究スタジオ)」より、許可を得て掲載。
URL:https://youtu.be/-O-H2MYzffs?si=SVQq4NAe7PjAJb8q


 特に重度の自閉スペクトラム症(ASD)やダウン症の子どもは、感受性が豊かな子が多いのに、ことばの発達が非常にゆっくりなために、伝えたい思いを他者にうまくことばで伝えられずイライラしたり、パニックを起こしたりすることがあります。そのようなとき、ことばに頼らないコミュニケーションである音楽療法は非常に有効です。

 定型発達(年齢ごとの発達に遅れがない)の子でも、大人でも、すべての能力に秀でた万能選手は存在しません。発達特性とは、その人の個性であり、強みともいえます。

 今の世の中はことばや文字に頼りすぎているようですが、人が世界とつながるための信号は、何もことばだけとは限らないはずです。ダンスでも絵画でも音楽でもなんでもよいので、個々人がその強みを活かして他者とコミュニケーションをとることができればいいのです。


Q2 音楽療法では具体的にどのようなことをするの?

A2 その子に合った楽器を使い、自由な方法で自己表現をしてもらいます


 音楽療法は基本的には子ども一人ずつに対して個別に行います。まずは子どもの状況を把握して、アセスメント(評価・分析)を行い、目標を立てる必要があるからです。実際のセッションもその子に合った方法で進めていきます。

 個別セッションを行う場合もあれば、ペアで行うこともありますし、個別からグループでのセッションに移行する場合もあります。音楽にダンスなどの動きを取り入れるときは、グループのほうが有効なので、複数で行うことが多いでしょう。

 どのような楽器を使うかも、その子次第です。多く使われるのが、太鼓やピアノ、ハープ、カリンバ、トーンチャイム(やわらかい音色のハンドベルに似た楽器)などです。なかにはトーンチャイムの音は苦手という子もいますし、高い音がダメという子もいるので、どんな楽器を選択するかは慎重に見極めます。

 音楽療法で大事なことは、子どもを観察することと信頼関係を築くことです。音楽療法士は子どもの様子をよく見て、その子の守ってきたものを尊重し、その子の好きな世界からつながりをもつように努めます。その子の今の感情に共感し、やりたいことに寄り添うのです。

 たとえば、楽器に興味を示さず、ひたすら本のページをめくっている子がいれば、横で同じように本のページをめくります。これは「ここではありのままのあなたを受け入れます」というメッセージを子どもに伝えるための行為なので、初回のセッションはそのまま終了してもOKです。

 そのうち、本のめくり方やスピード、呼吸や声、体のゆらし方などに、その子独特のリズムが現われてくるはずです。すると、音楽療法士はそれと同じリズムを楽器で演奏してみます。ピアノの鍵盤を「トトトトン」と叩いて、子どもが同じリズムを「トトトトン」と返してくれたら、大成功! 音を通じてコミュニケーションが成り立ったのです。あとは、音と音で対話を続けていきます。

 音楽療法士がその子の訴えをうまく感じ取り、子どもが感情や感覚を解放して自己表現できるように対話を続けていけば、子どもはやがてものすごい熱量で「ドドドドドドドン!!」と楽器を弾くようになるでしょう。これは、今までうまくことばにできずに心に閉じ込めていたさまざまな思いや感情を、音を通じて他人に伝えることができるようになった、ということです。これができるようになると、子どものコミュニケーションの幅は大きく広がり、気持ちも安定し、情緒も豊かになっていきます。


▲音楽ムーブメントで使用される道具の一つ「パラシュート」。大きな布の動きに合わせて音楽を取り入れ、空間を体で感じ、空間認知能力と感性をはぐくみます。

 セッションは通常1回30分~1時間程度。回数は1カ月に1回が目安ですが、なかには週に1回通う子どももいます。私が行う音楽療法は、半年後、1年後と期間を決め、目標を立てて行っているため、3歳~就学前にはじめて3年ぐらい続ける子が多い傾向がありますが、「もっとやりたい」と長く通う子もいます。成人になってからはじめても問題ありません。