お話をうかがったのは
「ひでまるファミリークリニック」 鏑木 眞喜子(かぶらき まきこ)さん

心理学博士、公認心理師、臨床心理士、明治学院大学心理学部非常勤講師
明治学院大学大学院で臨床心理学を学んだあと、スクールカウンセラー、精神科病院心理職を経て、2011年、国立国際医療研究センター病院小児科に勤務。2023年、明治学院大学大学院心理学部非常勤講師に着任。2024年から地域医療の場である「ひでまるファミリークリニック」小児科で発達外来を担当。

発達検査は子どもが生きていくための地図を描く作業です

Q1「子どもの発達検査」ってなに? どんな種類があるの?

A1 子どもの発達の遅れや偏りを調べる検査で、多くの種類があります


 子どもの発達検査とは、お子さんの発達の遅れや偏り、社会適応の度合いなどについて調べる検査です。

 発達検査には大きく分けて2つの種類があります。
 1つは、運動面の発達に関する項目が含まれている乳幼児対象の「発達検査」です。乳幼児対象の「発達検査」は、運動面、認知面、言語面の幅広い発達領域の検査によって、全般的な発達度合いを確認する検査です。
もう1つは、運動面の発達を見る項目が含まれず、質問にことばで答えたり手で作業したりする、主に学童期以降が対象の「知能検査、認知検査」です。「知能検査、認知検査」は、言語面や認知面を中心とした測定が行われます。


 これらの検査にはさまざまな種類がありますが、よく使われるのが下記です(図参照)。
乳幼児期 ……新版K<ケー>式発達検査2020」など
学童期以降 …… 「田中ビネー知能検査Ⅵ(田中ビネー知能検査Vも併存)」、「WISC-V<ウィスク・ファイブ>知能検査(WISC-Ⅳ<ウィスク・フォー>も併存):5歳〜16歳11カ月」、「日本版KABC-Ⅱ<ケーエービーシー・ツー>アセスメントバッテリー」など

 そのほかの発達に関する検査としては、ことばの読み書きに関する発達を見ることが可能な限局性学習症(SLD<エスエルディー>)のスクリーニング検査として、「STRAW<ストロー>-R」や「URAWSS<ウラウス>-Ⅱ」などがあります。

 限局性学習症(SLD)とは、全体的な理解力はあるにもかかわらず、「読み」、「書き」、「算数(計算)」など、特定の学習に大きな困難がある状態を指します。「STRAW-R」では、小学生から高校3年生までの読み書きの正確性と流暢性を調べることができ、「URAWSS-Ⅱ」では、小学生から中学生までの読み書きの速度から学習の遅れを予測することができます。

 そのほかにも、自閉スペクトラム症の傾向を測定することのできるPARS-TR<パース・ティーアール>:親面接式自閉スペクトラム症評定尺度、CARS2<カーズ・ツー>」(日本語版):小児自閉症評定尺度 第2版などを使うこともあります。PARS-TRは、保護者への面接による評定を行い、CARS2は、お子さんの行動観察と保護者の聞き取りによる評定を行います。


図 主な発達検査と知能検査、特定の発達に関する検査
大きく4つのカテゴリーで表しています。黄緑色の円は主な発達検査と知能検査、赤色の円は知能を認知検査と習得検査の両面で把握する検査、オレンジ色の円は、言葉の読み書きの発達に関する検査、水色の円は自閉スペクトラム症の傾向を知る検査を表しています



Q2 それらの検査の特徴は? 検査をすることで何がわかるの?

A2 全体的な、もしくは「言語理解」など各領域の、お子さんの発達度合いがわかります


 代表的な4種類の検査について、簡単に内容を紹介します。

●「新版K式発達検査2020」
 0歳から受けられる日本発祥の発達検査です。運動機能、認知機能、言語機能の測定という3つの要素から成り立っています。それぞれの領域の発達度合いはもちろん、3つが絡み合った総合的な発達度合いも評価できるので、トータルでお子さんの発達状態を知ることができます。各領域と全領域の発達年齢と発達指数が出てきます。検査者との遊びや、やりとりを通して行う検査で、初対面の他者と接したときのお子さんのふるまいも自然と検査の中であらわれてきます。検査時間は40~50分程度です。

●「田中ビネー知能検査Ⅵ」
 対象年齢は2歳以上で、知能に特化した検査です。ビネーという研究者の「知能は個々の能力の寄せ集めではなく、一つの統一体である」という知能観に基づいていて、全体の検査の結果から、「この子は現在、何歳相当です」というかたちで、精神年齢(MA:Mental Age)と知能指数(IQ: Intelligence Quotient)が算出されます。検査時間は1時間以上かかることも多いのですが、さまざまな問題がテンポよく出てくるので、小さなお子さんでも飽きずに行うことができます。

●「WISC-V知能検査」
 対象年齢が5歳~16歳11カ月の知能検査です。10種類の基本的な検査によって、同年齢の子のなかで、そのお子さんの知的発達がどの水準にあるかを知能指数として知ることができます。知能とは、いくつかの能力の「束」であるというCHC<シーエイチシー>理論という考え方に基づいて作成されています。そのため、全体の知能指数に加えて、「言語理解」、「視空間」、「処理速度」など、各能力が5つの指標(WISC-Ⅳでは4つの指標)として示されるので、その得点によって能力特性のばらつきを知ることができるので、子どもの得意・不得意の傾向もわかります。検査時間は90分前後です。

 5歳以上のお子さんであれば、WISC-V知能検査を受けるのが一般的です。5歳以下では、新版K式発達検査2020か田中ビネー知能検査Ⅵを受けることが多いようです。
 5歳以上であっても、主に知的障がいのある人が取得できる障がい者手帳である「療育手帳」を取得する場合は田中ビネー知能検査Ⅵを受けることが多いようです。

●「KABC-Ⅱアセスメントバッテリー」
 対象年齢は、2歳6カ月〜18歳11カ月までで、米国の研究者2名により開発された検査です。大きく分けると「認知検査」と「習得検査」から成り立っています。習得検査では、「読み」や「書き」の評価を行うことが可能です。ルリア理論とCHC理論という2つの理論に基づいて作成されており、検査結果を相補う観点から解釈することができます。

 注意したいのは、こうした検査の結果によって、お子さんに診断名や障がい名がつくわけではない、ということです。診断は医師が診察した上で総合的に行うものであり、検査結果はあくまでもそのための判断材料のひとつにすぎません。


「ひでまるファミリ―クリニック」5階にある発達外来相談室。左手のD診察室が発達検査室となっている


居心地がよく、明るく洗練された空間の待合室


Q3 どんなときに検査を受けたらいいの?

A3 日常生活で、困ったこと、気がかりなことがあるときです


 発達検査を受けるタイミングは、決して特別な場合ではありません。家庭や学校といった日常生活の場で、繰り返しトラブルが起きるなど、お子さんについて困ったこと、気がかりなことがあるときです。

 小さなお子さんであれば、ことばが出てこないなどの発達の遅れが気にかかる場合や、お友達といつもケンカになってしまう、集団生活になじめない、などの場合です。小学生以上のお子さんであれば、本を読むのが極端に遅い、いつまでたってもひらがなが書けない、現在の学習環境(通っている学級)で学習の遅れが気になる、といった場合に検査を検討するのがよいと思います。

 なかには発達検査を特別視したり、マイナスの印象を持ったりするご家族の方もいるかもしれませんが、発達検査というのは、お子さんの困りごとに対処するヒントをもらうためのものです。

 たとえば、知的水準は高いのに、読み書きだけが不得意な子がいたとします。漠然と「この子は勉強ができない」と周囲から捉えられてきたお子さんが、じつは「読み書きだけが苦手なんだ」ということがわかれば、「読み書きのサポートをする道具をいくつか検討して、フィットしたものを使う」という対処法が出てきます。それによって、お子さんの可能性を伸ばす方法の選択肢が広がっていきます。


Q4 どこで検査を受けられるの? いくらかかるの?

A4 公的機関と民間機関で受けることができます。公的機関は原則的に無料、民間機関は有料です


 発達検査は、大きく分けて、公的機関と民間機関で受けることができます。
 公的機関としては、発達障がい支援センター、児童相談所、療育センター、教育センター(教育相談所)、保健センターなどがあります。費用は、原則的に無料で受けることができます。
 ただし、公的機関では、お子さんの状態や家庭状況などを確認した上で検査の要不要を判断するため、必ずしも検査を受けられるとは限りません。検査が必要と判断されても、希望者が多いため、地域や時期によってはかなり混み合うこともあり、検査を実施するまでに数カ月かかる場合もあります。

 民間機関としては、発達に関する診察や検査を実施している地域のクリニック、総合病院の小児科で発達外来のあるところ、児童精神科などです。民間の療育相談機関やNPO法人でも検査を受けられるところがあります。民間の総合病院やクリニック、療育相談機関なら、希望者は目的を伝えた上で、概ね検査を受けることが可能で、予約も公的機関よりは取りやすいでしょう。ただし、専門病院の場合は、予約を取るまでに時間がかかることがあります。

 費用は、民間機関は有料で、医療機関の場合は、保険適用内か保険適用外かによって大きく異なります。面談も合わせて1万5千円〜2万円程度が目安といえますが、病院によってかなり幅があります。有料でも比較的リーズナブルなのが、大学付属の心理相談室や、NPO法人などです。これらは数千円で検査を受けられるところも多いようです。

 原則としては、お子さんの検査を希望する家族(保護者)が、各機関に心理検査を受けたい旨の問い合わせをして、検査を希望する理由や現在のお子さんの気がかりな点などを伝え、予約を入れ、実際に検査を受ける、という流れになることが多いといえます。

 検査を実施する機関によって、検査の目的やスタンスは違います。また、検査結果について書面を渡し、じっくり面談をして支援の方法を提案してくれるところと、口頭で結果だけを伝えるところがあります。ですから、保護者が問い合わせする際には、

「費用の目安」
「検査までの待ち時間」
「検査と結果報告面接、それぞれの所要時間」
「検査を受けてから結果が出るまでの期間」
「検査結果の伝達方法(書面をもらえるのか、結果報告の面接の有無や時間等)」

などをよく確認しましょう。何カ所か問い合わせて内容を比較検討し、希望に合った機関で検査の予約をしてください。さらに、ことばに不安があれば言語聴覚士、運動に不安があれば作業療法士がいる病院を選ぶのもよい方法です。


Q5 検査は何回も受けたほうがいいの?

A5 前回の検査時より、お子さんの状態や周囲の状況が大きく変わったときが次回の検査を受けるタイミングとしておすすめです


 発達検査は、1回受ければいい、というものではありません。子どもは日々経験を重ねて成長していますので、発達度合いは生涯変わらないわけではないからです。また、年齢によっては受けられる検査の種類も変わってきます。このため、発達検査の結果は、あくまでも「その時点の」「その検査による」状態を示していると考えてください。再検査は非常に大切で、お子さんの状態や周囲の環境変化があったときに再び検査を受けるのが望ましいでしょう。

 一方で、あまりに頻繁に検査を行うと、子どもによっては前回の検査問題を覚えていて、実際よりも高い数値が出てしまうことがあります。知能検査は、最低でも1年は間をあけてから受けるのがよいでしょう。