「社会性の向上」って?
家庭という守られた空間で犬と深い交流をすることで、子どもの情緒が安定していくことがあります。犬との生活が当たり前となる頃には、犬と一緒に出かける機会も増えていくことでしょう。犬が一緒にいることで情緒が安定するようになってくれば、刺激が多い屋外での生活も安定していくことになります。
犬が一緒にいると、犬との交流を求めて人が近づいてくるでしょう。その際、子どもの緊張は犬のおかげで和らぎますし、犬の姿を見ることで落ち着くことができます。これは、J.ボウルビー(John Bowlby)という心理学者が伝えている「安全基地」の役割を、犬や親が担ってくれるからです。
安全基地とは、不安や恐怖を感じたときに逃げ帰ることができる安心できる場所のことで、母親を「安全基地」とした場合、子どもたちは母親の存在や表情を確認しながら、少しずつ冒険することが可能になります。たとえ壁が邪魔で母親が見えなくても、少し移動して確認できれば安心して冒険を再開できます。これも小さな成功体験といえますが、その役割を犬が担ってくれているように思います。

アニマルセラピーの効果に「社会的効果」というものがあり、犬の存在が人と人の間の緊張関係を緩和し潤滑油の働きをしてくれるということは有名な話です。当然、その機能は発達に課題がある子どもにも当てはまります。大好きな犬を人と共有することで、本来苦手だった「人」という存在と交流することができるようになるのです。

川添 敏弘(かわぞえ としひろ)
- 酪農学園大学獣医学群獣医保健看護学類 教授。
公認心理師、獣医師。
発達障がい者を対象とした“アニマルセラピー”について長年研究し、今は「動物の問題はヒトの問題」と考え、多頭飼育崩壊など動物愛護を中心とした社会問題に取り組んでいる。