相模女子大学・相模女子大学短期大学部は、相模原市との連携・協働により、学校を卒業した発達障害や知的障害のある若者が、障害を通じて学び続けられ、余暇を楽しむことができるような環境の整備をめざした生涯学習プログラム(インクルーシブ・プログラム)の開発を行っています。
 2026年1月31日(土)、相模女子大学にて、その成果報告会が開催されました。今回はこちらの報告会の模様をレポートします。

「ともに生きる」社会の実現に向けた取りくみ

誰もが輝く「ともに生きるまち」への決意

 相模原市長・本村賢太郎氏
より、保護者の皆様へ心温まるメッセージが送られました。本村氏は、知的障害や発達障害のある当事者が大学生や市民と交流し、互いに学び、理解を深める場となっているこのプログラムが、市長のめざす「誰1人取り残さない」社会実現に向けて、極めて重要な役割を果たしていると、相模女子大学の取りくみを高く評価しました。

 相模女子大学のインクルーシブ・プログラムは、令和3年度から文部科学省の委託を受けてスタートした取りくみです。知的障害や発達障害のある当事者が中心となり、大学生や地域の市民とともに交流し、学び、そして未来に向かって一緒に活動を展開するという、他にはない特徴的なプログラムとなっているそうです。

 本村氏が特に強調したのは、このプログラムを通じた「相互理解」の重要性です。津久井やまゆり園で発生した事件から10年が経った今、改めて障害の有無に関わらず、当事者が「自分らしく生きていく」ことの大切さが問われています。大学生を含む市民の皆さんが当事者と直接交流することで、障害への理解が深まるだけでなく、社会全体の意識が変わっていくことへの期待を述べられました。

 こうしたプログラムを通じた交流は、単に当事者のためだけでなく、大学生や市民にとっても大きな学びになるといいます。市長は「当事者の皆さんが自分らしく生きていくなかで、市民の皆さんもそれに寄り添い、一緒に未来に向かって暮らしていく」ことが理想だと述べ、その実現に向けた重要な一歩として、このインクルーシブ・プログラムを位置付けているそうです。


▲相模原市長・本村賢太郎氏

「人として見る」関係づくりが、相模女子大学のプログラムの本質

 神奈川県副知事・首藤健治氏
は、相模女子大学のプログラムについて「ともに生きる社会の根っこがここにある」と述べました。このプログラムが重要とされる理由として、副知事は行政と当事者の間に存在するギャップに着目しているそうです。

 相模女子大学のプログラムは、知的障害や発達障害のある当事者と大学生がともに学ぶ場です。当事者と学生が対等な立場で交流し、互いに学び成長する関係を作ることをめざしています。副知事が指摘したのは、行政が陥りやすい「ラベリング」の問題です。

 行政は従来、「あなたは知的障害者」「あなたは生活保護受給者」とラベルを貼ってから支援に当たる傾向があるといいます。一方、当事者たちが求めているのは「障害者だから助けてあげる」という姿勢ではなく、「自分という人間を知ってほしい」という思いだと副知事は述べました。プログラムでは、学生たちが当事者の「好きなこと」「得意なこと」「楽しいこと」を共有するなかで、ラベルを外し「人として見る」ことができる環境が生まれているそうです。

 副知事はまた、このプログラムが生み出す新しい価値にも言及しています。当事者と学生がともに学ぶなかで生まれる「価値と価値が増える関係」が、共生社会を構築する基盤となると副知事は指摘しており、相模女子大学の取りくみをその実現に向けた先駆的事例として位置付けているそうです。


▲神奈川県副知事・首藤健治氏

文部科学省が注目する相模女子大学のインクルーシブ・プログラム

 文部科学省障害者学習支援推進室・川上恵子氏
によると、文部科学省は、相模女子大学のプログラムを、障害者の学びの機会を広げるモデル事業として位置づけているそうです。このプログラムが注目される背景には、わが国における障害者の高等教育進学率の低さがあるといいます。

 文部科学省障害者学習支援推進室の調査によると、障害者の高校卒業後、高等教育機関への進学は約2パーセントにとどまるという状況が明らかになっています。一方で、公民館の約9割が障害者の学習活動支援経験をもたないなど、社会における学びの機会が極めて限定的であることが課題とされています。
 こうした状況を受け、文部科学省は平成29年に障害者学習支援推進室を設置し、「ともに学び生きる共生社会の実現」と「障害者の主体的学びの重視」を掲げて取りくみを進めているそうです。

 相模女子大学のプログラムについて、文部科学省は二つの成果を評価していると述べました。
 第一に、参加者の自己肯定感の向上やコミュニケーションスキルの育成です。障害の有無に関わらず、参加者が趣味や交流を通じて同世代の若者と仲間として関わる貴重な場となっているということです。
 第二に、学生にとっての価値です。プログラムに参加した大学生は、当事者と支援者という一般的な価値観を超えて、多様性を重視する経験を得ていると指摘しています。

 文部科学省は、大学にしかできない役割があると強調しています。広域から参加者を受け入れること、教育研究を生かした充実したプログラムを実施すること、成果を対外発信することなど、大学は社会における障害者の生涯学習を推進する中核的な機関となることができるということです。一方で、課題として、プログラムの周知と普及の強化が必要であることを指摘しており、より多くの人にこうした学びの場が知られることを期待しているということです。


▲文部科学省障害者学習支援推進室・川上恵子氏

編集部コメント

 本報告会では日戸由刈先生(相模女子大学 人間社会学部 教授)をはじめ、登壇者10名とほかプログラムの参加者が、それぞれの立場から実践や知見、学んだことなどを共有しました。相模女子大学学長の田畑雅英氏から参加者への修了証の授与もありました。障害当事者が自身のことばで学びを発信する姿を見て、社会を動かしていく力強さを感じました。


▲インクルーシブ・プログラムに参加する勤労青年(働く障害のある若者のことを活動内でこう呼んでいる)と大学のゼミ生(左)、相模女子大学 人間社会学部准教授 武部正明先生(右)

【お問い合わせ先】

相模女子大学 インクルーシブ生涯学習プログラム 事務局
住所:〒252-0383 神奈川県相模原市南区文京2丁目1番1
MAIL:sagappa.lifelong@mail2.sagami-wu.ac.jp


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