愛玩動物看護師という国家資格を養成する専門職短期大学の学長であり、社会福祉士と精神保健福祉士の資格をもつ山川伊津子さん。「人の福祉」と「動物の福祉」が交わる場所で、新しい支援のカタチを切り拓いてきました。発達特性のある子どもたち、高齢者、そして動物病院で働く人々——すべてを包み込む「ベテリナリーソーシャルワーク」とは何か。その実践と可能性について伺いました。(取材:2025年11月6日)

「人の福祉」と「動物の福祉」が交わる場所

生田目康道(以下、生田目):山川先生のご経歴や研究内容を拝見すると、動物医療・福祉・地域をつなぐという3つの軸に沿って広がっているように感じました。どのような経緯から、そういった活動を進めてきたのでしょうか?

山川伊津子(以下、山川):まず、私はヤマザキカレッジ(現 学校法人ヤマザキ学園 ヤマザキ動物専門学校)の卒業生です。通っていた1980年代はまだ学校自体が小さかったころで、午前のみの2年制コースに通いながら、渋谷にある大学の英文科で児童文学を専攻していました。当時、ヤマザキカレッジは学校法人になる前の民間学校でしたので、ダブルスクールが可能だったんです。

卒業後はヤマザキカレッジの職員として4年間勤めた後、アメリカ留学を経て結婚。日本に帰国後10年ほどのブランクを経て、非常勤講師として学校法人ヤマザキ学園に戻ることができました。

勤務を続けてきたなかで、私が関心をもっていた「アニマルセラピー」「ペットロス」「動物愛護」「補助犬」——これらすべてが「人の福祉」にベースがあることに気づき、活動の幅を広げるために社会福祉系の大学へと学士編入し、社会福祉士※1ならびに精神保健福祉士※2の資格も取得しました。現在は、動物看護の教育とともに、日本での「ベテリナリーソーシャルワーク」(Veterinary Social Work:VSW。以下、VSW)の普及に注力しています。

※1 社会福祉士:子ども、障がいのある人、高齢者などとその家族を支援する相談援助の国家資格
※2 精神保健福祉士:心の健康問題を抱える方やその家族を支援する相談援助の国家資格


生田目:VSWは福祉と動物医療が組み合わさることで生まれたものかと思いますが、どのような概念の職業なのでしょうか?

山川:簡単に言えば、「人の福祉」と「動物の福祉」が交錯する場で起こっている問題や課題に対して介入する職種です。

アメリカでは、ソーシャルワークの修士課程を修了した専門職の一分野として確立されています。たとえば、病院にはメディカルソーシャルワーカー、学校にはスクールソーシャルワーカーがいるように、動物に関連する領域にはVSWが存在します。

生田目:具体的な内容も教えていただけますか?

山川:はい、実際のところ、VSWには4つの領域が含まれます。

1つ目は“アニマルセラピー”(動物介在介入)です。高齢者向け施設などで行われる、動物を通じてヒトの心身の健康回復などをはかる活動がここに含まれます。ヒトと動物の福祉が重なる典型的な活動の場です。

2つ目はペットロスです。動物を亡くした飼い主の心のケアを担い、これも人と動物(動物医療)の双方の視点が求められます。

3つ目は対人暴力と動物虐待のリンクです。たとえば、動物虐待を行っている子どもがいるとするならば、「まわりの大人が注意し見守ることが将来的な犯罪の抑制につながる」という、アメリカから入ってきた概念です。

4つ目はコンパッションファティーグ(共感疲労)です。動物医療に携わる人たちが飼い主に共感しすぎることで、疲弊し燃え尽きてしまうケースです。

アメリカではこの4つですが、5つ目にその他として、多頭飼育問題や高齢者/生活困難者の動物飼育問題などがあげられます。


▲VSWが介入する「人の福祉」と「動物の福祉」が交差する場

現状では、動物看護の領域において、社会福祉士の資格をもつ方は非常に少ないと思います。ただし、2022年度からは愛玩動物看護師の国家試験出題範囲の「人と動物の関係学」のなかに「人間の福祉と愛玩動物の関わり」という項目が含まれるようになりました。そこでの到達目標として、「多頭飼育崩壊について理解する」や「愛玩動物が子どもや高齢者に与える恩恵及び人間の加齢に伴って飼養困難になる様々な事情について理解する」と明記されています。少しずつではありますが、その活動概念が広がってきていると感じています。

生田目:先生は、愛玩動物看護師にどのような役割を期待していますか?

山川:愛玩動物看護師は「対人援助職」(医療や福祉などの分野で、援助を必要とする人々と直接関わり、支援を行う専門職)だと思っています。「愛玩」ということばの意味は「大切にしたい/可愛がりたい」というものですが、そのことばがついているということは、そこには必ず飼い主という「人」が存在しています。飼い主と動物、両者のウェルビーイング(安寧・幸福)を支援していくのが、愛玩動物看護師の役割だと思っています。だからこそ、学生たちには「あなたたちが思っている以上に、社会に対してできることがたくさんあるんだから、ちゃんと勉強してね」と伝えています。