発達特性と共に歩む方々のリアルな声を紹介する特別連載の第4回です。今回は、特別支援学校内にあるパン工房で実習助手として働きながら、余暇にはライブ鑑賞やギター演奏を楽しむ岩本 健吾(いわもと けんご)さんのインタビュー記事の後編です。仕事のことや日頃考えていること、将来の目標などについてお話を伺いました(取材:2025年11月15日)。
前職を経て、母校のパン工房で働くことに
今の仕事に就く前は、IT関連企業の特例子会社でパソコンを使った事務の仕事をしていました。1年目はパートタイマーでの雇用で、事務作業に加え、社内を巡回して備品や消毒液などの補充も担当しました。3年目に契約社員となってからは、社外から届く荷物や書類の宛先記録、社内便や郵便物の登録、それから落としものの記録など、幅広く担当しました。クリーニング業務を兼務していた時期もあります。
その会社には8年半勤め、9年目の9月に休職し、改めて自分に何ができるかを考える時間にしました。その期間に自動車教習所へ通い、約3カ月で運転免許を取得できました。
運転免許の学科試験は教本やオンライン学習で事前に学び、内容が視覚的に示されていたので理解しやすいと思いました。一方、実技試験はその場での判断が多く、見通しが立てにくいためとても苦戦しましたが、何度か挑戦して最終的に合格できました。
復職後は、週末にパソコン教室で、表計算ソフト(Microsoft Excel)を勉強し、MOS(Microsoft Office Specialist〈マイクロソフト オフィス スペシャリスト〉)に合格しました。こうして運転免許資格とMOSの取得という、昨年立てた目標2つを叶えることができました。
そして今年度からは、母校である特別支援学校高等部のパン工房で実習助手として働いています。高校時代の進路担当の先生が当時の校内実習での様子を覚えていて、「パン工房で働いてみないか」と声をかけてくださいました。午前は製パン指導の補助として、パン生地にトッピングをのせる作業や出荷作業などの工房内での業務を、午後は校内カフェで接客やレジなどを担当し、原則月曜から金曜まで1日7時間半勤務しています。
「自分のことばで語っていい」と思えたインクルーシブ生涯学習プログラム
自分らしくいられると感じるのは、仕事で忙しい業務をやり切った瞬間や、自分の好きなギターを弾いているときです。
また、土日に参加している相模女子大学・相模原市の「インクルーシブ生涯学習プログラム」※1内の活動で、自分の思いや考えを自分のことばで発信できる時間が、充実しています。以前はことばで伝えることが苦手でしたが、活動を通して「自分のことばで語っていい」と思えるようになりました。この参加も高校時代の進路担当の先生が誘ってくださったのがきっかけでした。
※1:相模女子大学と相模原市が連携して実施する「インクルーシブ生涯学習プログラム」は、発達障がいや知的障がいの若者と同大学の学生がともに学ぶ生涯学習の取りくみです。 当事者が、同世代の若者と一緒に仲間として過ごし、好きなこと・興味のあることについて学び、意見交換や地域社会への発信など、豊かな人生を送るための生涯学習活動の在り方を考え、実践しています。

▲社会人としての経験を重ねるなかで、さまざまな業務に携わってきた健吾さん。前職から現職へと至る休職期間には、自分と向き合い、資格取得にも取り組むなど、自己研鑽を欠かさなかった
社会人1年目は家と会社の往復だけで余裕がなく、自分らしくいられる時間はほとんどありませんでした。しかし、社会人3年目からは友人に誘われていろいろな場所に行くようになり、高校時代の先生に誘っていただいて相模女子大学での活動につながりました。
社会人になってから、意見を抑え込まれることや話すのが怖いと思う場面に置かれたことも正直あったのですが、先生方や仲間との関わりで「自分のことを語れるのは自分しかいない」と気づき、少しずつ思いをことばで伝えられるようになりました。
約4年前に初めて参加した相模女子大学の「インクルーシブ生涯学習プログラム」内のリサーチ活動では、「上下関係なく対等に話そう」という考えが一致し、大学生の皆さんと率直に語り合える場が生まれました。そこで、自分の思いを躊躇せず素直に語り合うことの大切さや、お互いにいい関係性が生まれる喜びを実感しました。












