2025年9月20日(土)、神奈川県相模原市のウェルネスさがみはらにて、相模原市主催、相模女子大学共催の「令和7年度インクルーシブ・プログラム開発事業 啓発講座『人生ってなに?』『働くってなに?』『ずっと学ぶってなに?』」の第2回が開催されました。

※第1回目のイベントレポートはコチラからご覧ください。
https://subarucollect.jp/detail/340/

発達障害のある若者が「働く」と「学ぶ」を楽しむために

 本講座は、発達障害や知的障害のある若者が、学校を卒業してから社会に出て、自立していくために必要な知識や生活に取り入れたいヒント等を提供すること、そして働いている当事者たちと大学生らの交流により、相互に成長していけるきっかけづくりを知ってもらうことを目的に、啓発講座として全2回・各回2部構成で企画されたものです。
 第1回が「発達障害や知的障害のある中学生以上の若者」を中心に対象としていたのに対し、今回の第2回は保護者、教員、支援者に向けた内容となり、参加者の多くは当事者の保護者の方々でした。
講座前半では、ブックオフグループホールディングス株式会社の特例子会社であるビーアシスト株式会社から、現場での実際や就労定着に向けた取りくみが紹介され、後半では当事者が独り立ちしていくための学びや支援のあり方についても取り上げられました。
 今回の講座は「支える側」への実践的な視点にフォーカスされながらも、当事者自身にも理解しやすい内容になっており、参加者それぞれに役立つ気づきが得られる場となっていました。


●セミナー1:障害者雇用の実際 ~働く現場のリアルを知る~
 第1部では、ビーアシスト株式会社 大宮事業所所長の 天野圭子さん が登壇しました。ビーアシスト株式会社は、神奈川県相模原市に本社を置くブックオフグループホールディングス株式会社の特例子会社であり2010年より認定を受けて、障害のある人の雇用を積極的に進めている企業です。
 天野さんは、ビーアシスト株式会社でスタッフが実際にどのような職務に就き、職場でどのような工夫が行われているのかについて、スライドや動画を用いた紹介がされました。
そのなかで、実際に働く社員による発表動画も一部取り入れられ、現場の雰囲気や取りくみがより具体的に伝わる内容となっていました。


▲第1部の講師である天野圭子さん(ビーアシスト株式会社 大宮事業所所長)

 発表動画は、2年働かれている勤労青年・畑さんによるおおよそ10分の動画発表で、小学生・中学生・高校生と各年代ごとに、自身が体験してきた出来事や抱えてきた思いを自身で用意した原稿を読みあげて丁寧に振り返るものでした。特に、周囲に馴染むことが苦手であったことを率直に語りながらも、特別支援学校の受験に挑戦し、見事合格を果たしたこと、その後に取りくんだ複数の就労実習での経験についても、具体的な出来事を交えつつわかりやすくまとめられており、畑さんの成長と自立に向けた歩みが力強く伝わり、参加者に深い感動を与える発表となっていました。
 また、雇用現場で生じる課題についても、「すぐにメモを取れるようにすること」「メモをとるために字を練習すること」「周囲に相談をすること」などのアドバイスもあり、保護者や支援者たちは熱心に耳を傾けていました。

 天野さんはジョブコーチ※の資格を有しており、指導経験を通じて得られた学びや気づきをもとに、支援の現場で役立つ具体的な視点を紹介されました。適切な声掛けの方法や面談における様子の見方について、事例を交えながら丁寧に解説されていた点が印象的でした。
 これらの内容は、支援者や保護者が日々の実践に取り入れやすいかたちで示されており、参加者にとって非常に有益で実践的な学びとなったと考えられます。

※ジョブコーチ=職場適応援助者のこと。厚生労働省が定める「職場適応援助者」支援事業の制度において、障がいのある方が職場に定着できるよう、本人と企業の双方を支援する専門人材。
職務の理解、環境調整、適切な声掛けなどを通じて、働きやすい環境づくりをサポートする役割を担う。


▲第1部の会場の様子、半分以上が当事者の保護者だったとのこと


●セミナー2:対談で学ぶ社会人生活 ~仕事も学びも楽しむコツを聞いてみよう!~

 第2部では、株式会社はまリハ顧問であり、インクルーシブ・プログラム開発事業協力者でもある川口信雄さん が登壇。
 川口さんからは、特別支援学校卒業後の知的障害者の進路について、就労や進学の現状を海外の事例も交えながら紹介されました。そのうえで、日本の法制度が抱える課題を踏まえ、この「インクルーシブ・プログラム」を立ち上げるに至った経緯が語られました。
 また、相模原市・相模女子大学と連携して行われているインクルーシブ・プログラムについては、当事者メンバーである勤労青年の今藤孝拓さん、水野克隆さんとの対談形式で紹介されました。そこでは、「働くこと」や「働くために余暇を楽しむこと」の大切さについて、実体験を踏まえた意見が交わされ、参加者にとって多くの示唆を与える内容となりました。


▲第2部、左から勤労青年の今藤孝拓さん、同 水野克隆さん、川口信雄さん(株式会社はまリハ顧問)

 対談のなかでは、幼少期からの苦労や学校生活での経験、採用実習を通してどのように仕事を探していったか、社会人として働くなかでの日々の奮闘に加え、働きながら趣味を楽しむこと、一人暮らしを通して得た自由・気づきなどが多く語られました。特に、自分の趣味を紹介する「パーソナルポートフォリオ」を活用しながら好きなことを語るときに見せる笑顔はとても印象的でした。その姿に、聴講者からも自然と笑みがこぼれる場面が見られました。


▲第2部、今藤さん、水野さんが語られる様子、パーソナルポートフォリオを用いた趣味紹介

 質問では、当事者の方から、コミュニケーション時に起きる戸惑いの解決方法や、就労後の1人暮らしの始め方など、さまざまな質問が寄せられました。


編集部コメント
 本セミナーは、参加者の多くが保護者の方々でしたが、全体を通して、保護者・支援者・当事者のすべての方に、障害のある方が自立して働いていく姿をより鮮明にイメージできる内容となっていました。
 第2部の当事者対談では、原稿を一切用いずに自然体で会話を進める姿が印象的で、コミュニケーションの苦手さを感じさせない堂々とした様子が伝わってきました。この姿は、保護者にとってはもちろん、当事者の方々にとっても大きな勇気となったのではないでしょうか。


こちらの記事もおすすめ