小学校高学年以降、親は“黒衣”に徹してほしい
生田目:先生のもとへは保護者からどのような不安が多く寄せられますか。
日戸:わが子が育児本に書いてあることと違うとか、近所の子と全然違う、といった声が多く寄せられますね。発達特性のある子は少数派なので、親は多数派の、しかも特別よくできるような子を見てしまいます。そして「うちの子は幼児期のこの心配な状態のまま大人になるんじゃないか」と不安になります。
加えて、発達特性のある子は将来仕事につけないとか、引きこもりになりやすいといった情報をインターネットなどで目にすると、ますます不安が募ります。先は長いので、保護者には息切れしないようにゆったりと子育てをしてほしいですね。
生田目:「うちの子は発達特性があるからどうしよう」と暗いことばかりを考えるのではなくて、もっとどうすればよいのかを長い目で見て考えて、ドーンとかまえていいということですね。
日戸:まさにそれです! それとね、支援と先回りは違うことを理解してほしい。発達特性のある人は、「親から独立した存在の自分」という認識が薄いことが多いので、小学校高学年以降、親はなるべく“黒衣(くろこ)”に徹してほしいんですよ。子どもから離れて静かに見守り、万が一のときだけサポートする。そうしないと、親子関係が過剰に依存的になりやすいんです。
一般的に、子どもが反抗期を迎えたあとは、親は子どもが相談に来たときだけ応える関係になりますよね。しかし発達特性のある人は反抗期がはっきりしないことが多いので、親も自立すべき時期が来たことに気づきにくい。自分の部屋もないし、自分一人の空間もなく、自分はこうしたいとか、家族はこう言うけど自分はこう思うといった自己主張もしないまま育つことがあります。
基本的な生活習慣が未自立だと就職も難しくなりますから、先の見通しや知識をもったうえで、保護者のほうから子離れしていってほしいですね。子離れしても放任ではダメで、子どもの試行錯誤を“黒衣”のように見守るのです。
家庭は社会の縮図ですから、家庭のなかでほどよい距離感やルールをつくっておけば、社会にも通用します。逆に、家庭のなかで変なスタイルをつくってしまうと、子どもはそれを社会でもやっていいと思ってしまいますから、気をつけたいですね。

生田目:親が“黒衣”に徹することで、子どもの自立につながりますよね。生活習慣といえばお金の話も大事ですね。
日戸:金銭管理も基本的な生活力の一つですからね。その練習のために、発達特性のある子にもお小遣いは渡してほしいです。足りなかったら我慢することや目的のためにお金を貯めることを学ぶのはとても大事です。発達特性のある子たちのなかには、小学校3、4年生になってもお小遣いをもらっていないことがよくあります。欲しいものがあるときは親に言って買ってもらうそうです。
親がそうする理由の一つは、お金なんか渡すとどのような使い方をされるかわからないからです。自分が子どもをコントロールできないと不安になるので、お金もスマホも渡したくないのでしょう。でも、お小遣いを渡して、試行錯誤しながら使わせて、失敗するという経験をさせないと、金銭感覚は身につきません。
さらにいうと、お小遣いをお手伝いとセットにするのもNGです。あんなに簡単なことでお金を稼げるほど社会は甘くありません。祖父母からの高額なお小遣いも、「将来のために」と話して貯金するとよいと思います。
「~したらお小遣いナシ」という罰則も避けてください。大人の都合で何かを強制すると、子どもは大人を信用しなくなります。スマホは、子どもが一定の年齢になるまでは、親が買って子どもに「貸す」ことにすると、問題が起きたとき使用禁止がしやすいのでおすすめです。子どもに「あげた」ものを没収すると反発されますからね。何事も、事前に大人主導である程度の枠組みを子どもと取り決めたうえで、子どもに試行錯誤させて社会勉強させるのが大事です。

生田目:その辺は小学校高学年から“黒衣”として親がやらなくてはいけないことですね。
日戸:保護者と一緒に試行錯誤しながら育ってきた子は、結構自立して育つ子が多いんですよ。
生田目:試行錯誤する過程で、失敗体験と成功体験の割合はどのくらいがいいのでしょうか。
日戸:発達特性のある人たちは、放っておくと失敗が多くなるため、成功体験をさせるほうが難しいんです。失敗はなるべく少ないほうがいい。特に幼児期は、大人が援助や工夫をしながら成功体験を重ねられるようにしてあげることが大事です。
うまくできなくても、すかさず大人が援助すれば、それは失敗じゃない。失敗とは、うまくできなくて叱られるとか、誰にも助けてもらえず途方に暮れた状態のことですから。
発達障がいや知的障がいが軽度の子どもたちは、小学校中学年になると考える力やことばの理解力が育ってきます。すると、直感で理解するのは難しくても、大人に教えられた理屈でなら多数派のこともわかるようになってきます。理屈がわかれば、自分自身で失敗を減らすこともできます。そうなってくれば、失敗はむしろ本人が成長するためのチャンスになるんです。適度に失敗して、大人のサポートを受けて立ち直る経験をすることで、レジリエンスははぐくまれていきます!
生田目:なるほど。今日は非常に参考になるお話ばかりでした。ありがとうございました!
日戸:こちらこそありがとうございました!
日戸 由刈(にっと ゆかり)
- 相模女子大学人間社会学部人間心理学科教授。2025年度信州大学医学部こどものこころの発達医学教室招待教授。公認心理師、臨床心理士、臨床発達心理士スーパーバイザー。1992年、筑波大学大学院修士課程教育研究科障害児教育専攻修了。東京学芸大学より博士(教育学)を取得。横浜市総合リハビリテーションセンター発達精神科外来にて約20年間、心理職として発達障がい児者の診療・支援に従事。2013年に同センターの児童発達支援事業所「ぴーす新横浜」の園長に就任し、発達支援の現場を統括。2018年4月より現職。臨床現場での経験を学生教育や研究に活かしている。
生田目 康道(なまため やすみち)
- 株式会社EDUWARD Press 代表取締役会長
株式会社JPR 代表取締役社長(プリモ動物病院)
株式会社QIX 代表取締役社長
株式会社QAL startups 代表取締役共同CEO
一般社団法人日本ペットサロン協会 専務理事
株式会社MIHAO 代表取締役社長(すばるゼミ)


















