幼児期は親子のかかわりが重要。そのためにも親は無理せず外部から支援を
生田目:先生が提唱するインクルーシブ教育とはどのようなものですか。
日戸:インクルーシブ教育では、障がいの有無などで子どもを分けず、一人ひとりを独自の個性をもつ存在としてとらえます。なかには、みんなと違うニーズをもつ子もいて、そういった子は一斉指示だけの教育だと難しいため、オーダーメイド支援も必要になります。そうやって一人ひとりのニーズに応えながら、すべての子どもが参加し、成長できる教育のことをいいます。
生田目:基本的には、特別なニーズのある子を分けて考えるのではなく、一緒に学ぼうという考えなのですね。
日戸:小さいころはみんなと一緒が難しくて、特別支援学校みたいな刺激が少ないところで学ぶほうがよい子もいます。それがその子の特別なニーズです。年齢が上がってその子の準備が整い、みんなのなかに混ざれるようになったら混ざりましょう。必要に応じて配慮すればいいわけです。
生田目:みんなが自然に一緒に交われる環境をつくる。ただ、特別な配慮や支援が必要な子からは目を離さない。そういうことですね。

日戸:その通りです。学校や保育園の先生のなかには「一緒にすればいいんだろう」と思っている方が多く、「みんな違ってみんないい」で終わらせてしまう面もありますが、それでは無責任。幼い子はみんなバラバラに行動しますし、発達のスピードもそれぞれなので、幼稚園・保育園こそ発達特性に合わせてクラスをつくったり、プログラムや内容を整えたりできるといいんですけどね。
生田目:保育園の先生に、合理的な配慮と、甘やかしを含めた特別扱いとの違いをどう判断したらいいかと聞かれたら、先生ならどう答えますか。
日戸:合理的配慮の前に、ユニバーサルデザイン※5が必要です。「多様な子どもたちが参加しやすいよう工夫する」という考え方ですね。幼い子どもに、先生が口頭指示だけをするのはユニバーサルデザインではありません。幼い子はことばをよく聞かないし、集中力もない。絵で示すなどの視覚的な手掛かりをつくるとか、短いことばではっきり伝えるのが効果的なユニバーサルデザインです。
※5 ユニバーサルデザイン:年齢、性別、文化、障がいの有無などの違いをもつ人々が、できる限り公平かつ安全に利用しやすいように、製品、建物、環境、情報、サービスなどを計画・設計する考え方。
生田目:そのような工夫をしてくれたら発達が気になる子たちの多くが救われますね。
日戸:それでもついていくのが難しい子がいたら、その子には合理的配慮が必要になります。たとえばサポート役の人をつけるとか、手順書を渡すとか、簡単な工作を先生と一緒につくろうとか、みんなと違ったやり方で参加するとよいでしょう。
教育委員会もユニバーサルデザインの研修会をしていますが、現場の先生方はやることが多すぎて疲れ切っていますよね。だから、「すばるゼミ」※6のような学校以外にも学べる場がもっと増えてくるといいと思いますね。学校ではみんなと一緒に楽しく過ごすことを目標にして、細かい対応が必要な勉強は別のところでやる、と割り切ると、親も子もだいぶ楽になります。
※6 すばるゼミ:澄陽学園が運営するグレーゾーンや発達障害のある小・中学生向けの特性サポート型少人数学習塾(https://subaruzemi.com/)。

生田目:家庭は配慮が必要な子の人生の土台であり、自己肯定感とレジリエンスを鍛える場になると思います。保護者は子どもにどのように向き合えばいいですか。
日戸:子どもはみんなそうなんですが、赤ちゃんのときから親を安全基地※7ととらえ、少しずつ離れては周囲を探索したり、興味があるものを見つけたらまず親に見せたりして、わかち合いの楽しさを知って、社会のルールに沿って動くのは大事だと学びます。でも、発達特性がある子は自分から親に働きかけをするのが難しい場合が多いので、親のほうが意識して子どもに歩み寄る必要があるんです。歩み寄るとは、わが子をちゃんと見て、わが子に波長を合わせながら、よい関係、よい経験を積んでいくことです。
このとき、親には「ここまでしなきゃいけないのか」とか、「うちの子は将来どうなるんだろう」といったいろいろな葛藤や不安が生まれます。こうした感情を自力で抑えるのはとても難しいので、外からのエンパワメント※8がとても大事です。教師の励ましや専門家の助言、同じような悩みをもつ保護者からの共感などですね。
※7 安全基地:心理学者J.ボウルビー(John Bowlby)が提唱している、不安や恐怖を感じたときに逃げ帰ることができる安心できる場所のこと。
※8 エンパワメント:援助される人が本来もつ自己決定力などを回復・強化できるよう支援すること。
生田目:先生はそうした保護者のサポートもされているんですよね。
日戸:ええ。私はそれがとても大事だと思っていますから。横浜リハセンターの医師たちは、よく「2:8(にはち)の療育」と言っていました。「発達特性のある子の支援というけれど、幼児期は子どもが2割、保護者が8割。そのくらい保護者支援は大事だ」って。けれど、全国的に見ると保護者支援の場が足りてはいません。
生田目:そこはとてもよくわかります。
日戸:保護者がサポートを受けながら、少し育てにくいわが子の幼児期にしっかりと向き合うと、青年期になったときに子どもはきちんと次のステップに進めます。そこがうまくいかないまま青年期になり、成人期になり、歳をとってどんどん対応が難しくなるケースは大変多いのです。












